東京精神医療人権センター研究会報告 「滝山病院事件の背景と現状」

東京精神医療人権センター 中村美鈴

 

おりふれ通信でもご案内がありましたが、東京精神医療人権センター(以下、「東京人権センター」)では、4月16日に総会と研究会を開催しました。

私は昨年度より東京人権センターの運営委員に加えていただき、微力ながら活動のお手伝いをさせていただいています。今回は総会の後に開催された研究会の内容をご報告させていただきます。

研究会のテーマは「滝山病院事件の背景と現状」です。八王子市の滝山病院事件については、おりふれ通信でもいち早く東京地業研の飯田さんや滝山病院退院支援連絡会を発足した細江さんが立て続けに寄稿され、事件の背景や、事件後の動きなどの情報やメッセージを発信され、緊迫感が伝わる内容でした。東京人権センターでも、研究会で取り上げることにより、病院の情報や退院支援の動きについての現状を多くの参加者の方々と共有し、背景にある日本の精神医療の問題点についても皆さんと一緒に考えることができたのではないかと感じています…

<以下、全文は、おりふれ通信422号(2023年5月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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投稿 長野精神医療人権センター設立の経緯と現状、課題

長野精神医療人権センター代表 東谷 幸政

 

 はじまり

私が東京地域精神医療業務研究会のメンバーとして東京の精神科病院への立ち入り調査を繰り返していた頃、東京都多摩市の桜が丘記念病院で私の訪問調査に対応して下さったのが中谷真樹医師だった。

精神科病院への訪問調査の結果は、「東京精神病院事情」という冊子にしてまとめて、当事者や家族が精神科病院を選定するときの参考にしていただいている。

 私が定年退職して間もなく、長野県に移住すると、甲府の住吉病院に院長として中谷さんがおられた。私が長野県で、中谷さんが山梨県で、それぞれ人権センター設立運動を進めて、最終的には2つの組織を合体させて、甲信精神医療人権センターにしていこうという構想を二人で作った。

事務局、相談員、協力弁護士などを隣県で融通させれば、少ないマンパワーと資金でも回せると考えた。残念ながら、両県ともに運動の蓄積がなく、精神医療人権センターの必要性についての認識は全く無い。

運動のスタート

 長野県に移住してから知り合った当事者の方に呼びかけて、「長野県の精神医療福祉を考える会」を立ち上げたのは2016年の秋。スタートメンバーは4人。当事者が2人、元中学教師の市民が1人。そして私。

 毎月1回、第1日曜日に長野県富士見町の私の自宅に集まり、例会を開催した。

長野県には駒ケ根市を中心とした地域のネットワークが以前はあったが、現在は消滅しており、一から組織を作らなければならない状況だということがわかった。活動を継続しているのは、ピアサポートの当事者ネットワークと地域家族会で、ソーシャルワーカーのネットワークは極めて弱体であった。地域の研究会などのネットワークも見当たらなかった。

 2年ほど毎月の例会を開催したがあまりメンバーは増えず、人権センター作りの展望は見いだせなかった。このためイベントを開催して広く仲間を集めようという事になった。

これまでの活動とこれから

1.2018年の12月に松本で「オープンダイアログ」の映画上映会を開催した。

精神科病院への強制入院体験を持つ当事者2名の方から長野県における精神病院入院体験をお聞きした。私からは、東京での病院訪問調査活動の報告と、民間人権センターの必要性を訴えた。参加された当事者や家族から、悲惨な報告が相次いだ。あまりにも不当な入院が横行している長野県の実態が明らかにされた。約70名の方が参加し飛躍的に会の活動が広がった。以降、毎月の例会参加者は倍増した。

2.201912月に、南松本で甲府の住吉病院長の中谷真樹さんと同病院のソーシャルワーカーの小川瑛子さんのお話を聞く講演会を開催した。

中谷さんからは住吉病院の実践報告、特にオープンダイアログ、WRAP、家族会、減薬支援の活動を中心に話を伺った。小川さんからは地域で暮らす障害者支援の報告を頂いた。参加者は50名。

3.2021年4月、精神病院勤務の経験がある長野県朝日村保健師の河西ひろ子さんの講演会を開催した。20数名の医療関係者、当事者、家族が集まり、地域のネットワーク形成の大きな足がかりとなった。

4.長野県の精神病院の実態を明らかにするために、長野県情報公開条例にもとづいて630調査の情報開示を求める開示請求を行った。長野県からは開示するとの回答があったものの、開示された病院情報はほとんどは黒塗りで、情報をまとめて当事者・家族に開示しようという目論見は実現できなかった。

5.長野県内にある精神科病床をもつ33病院に院内活動に関するアンケート調査を行ったが、回答があったのは4病院のみであった。アンケートの結果をまとめて冊子を作り、「東京精神病院事情」のような情報提供をしようという構想は実現できなかった。

アンケート調査票の郵送前に説明に伺ったりの「根回し」が足りなかった。

6.当事者、家族、精神医療福祉関係者を対象とした、生活実態調査および医療福祉に関する満足度調査、ニーズ調査を実施しようと、調査票の検討を行ってきた。アンケート調査票はほぼ完成している。調査研究の実施時期については今年度を考えているが未定である。

7.2022年5月15日に、松本市で長野精神医療人権センターの設立総会を実施。元読売新聞記者の佐藤光展さんの講演会と、精神国賠訴訟原告の伊藤時男さんと当会代表の東谷がテレビ出演した番組「日本の精神医療の問題点」を上映した。

横浜から、横浜アクターズスクールのメンバーに参加していただき、精神医療を舞台とした演劇を披露していただいた。

規約と今後の活動方針を会場と検討して決定した。事務局を松本市内に設置した。

8.当事者、家族からの相談に対応してきた。面接と電話相談に対応してきた。

毎月第一日曜日の午後に例会を行い、相談者からの相談に対応してきた。相談者(当事者、家族)に対して7~8人の会員(当事者、家族、医療福祉関係者)が対応するミーテイング形式の相談対応を行ってきた。私たちなりのオープンダイアログ的実践であると考えている。

私たちが今後長野県で目指していること

①退院促進活動と権利擁護 ②相談活動 ③調査研究活動 ④広報宣伝活動 ⑤精神医療国家賠償請求訴訟への協力活動 ⑥アドバイザリーボードの育成強化 ⑦ネットワーク事業 ⑧クラウドファンデイング ⑨各国の先駆的実践との交流

長野精神医療人権センター事務局

〒390-0861松本市蟻ケ崎1873-1

相談電話 090-8818-8268 東谷幸政

月~金曜 午前10時から午後6時(祝日は休みます)

転送により、別の方が出ることがあります。

メール higashitaniyukimasa@gmail.com  面接による相談は予約が必要です。

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東京精神医療人権センター「再建」総会報告

石原 孝二

 

 

東京精神医療人権センターの総会が327日(日)14時~16時、にしの木クリニック1階会議室(及びズームミーティング)で開催され、規約の改正と運営委員の選出が行われました。総会参加者は24名でした。東京精神医療人権センターでは、この間、電話相談などの活動は続けられていましたが、(資料で確認できる限り)20116月を最後に総会が開催されなかったため、運営委員・役員の選出が行われず、会員管理なども行われない状態が続いていました。今回の総会は、規約改正と会員の確定、運営委員の選出を行うことによって、センターの意思決定機能を回復することを目的としたものです。その意味では、今回の総会は、センターの「再建」総会として位置づけられるものだと思います。

東京精神医療人権センターは大阪(1985年設立)に次いで全国で2番目に設立された精神医療人権センターですが、1973年に結成された「東京都地域精神医療業務研究会」(東京地業研)を基盤とする精神科医療の改革活動の中から生まれてきたものです。1981年には東京地業研のメンバーが中心となり、「診療所運動」の拠点として新宿に柏木診療所が開設され、同時に「精神医療をよくする会」が結成されました。また、精神医療をよくする会の機関誌として「おりふれ通信」が発刊されています。(精神医療をよくする会は1992年に解散し、それ以降「おりふれ通信」はおりふれの会によって発行されています。)1985年には、第二診療所として、立川に「にしの木診療所」が開設されました。1985年の大阪精神医療人権センターの設立などを受け、「精神医療をよくする会」のメンバーと弁護士のグループが中心になり、19863月の東京精神医療人権センターの設立が準備されていきました。

その後1997年度~2007年度には東京都地域福祉財団(のちに東京都高齢者研究・福祉振興財団)からの助成を受け、独立の事務所をもち、専従の事務局員を雇用するなど、活動が大きく展開した時期もありましたが、財団からの助成が終了した2008年度以降は活動を縮小し、すでに述べたように20116月を最後に総会も開催されていません。この10年は、東京精神医療人権センターは停滞期にあったと言えます。ここ数年間は、活動終了も視野に入れた話し合いが行われていたと聞いています。

東京精神医療人権センターの設立以降、日本の精神医療は、人権の擁護という視点から見て、残念ながらより良い方向に向かったとは言えません。過去の東京精神医療人権センターの活動報告やおりふれ通信の昔の記事を読むと、人権侵害の状況の基本的なところは変わっていないのではないか、という無力感と絶望感を覚えます。しかし、これまでの36年間のセンターの活動は、決して無駄ではなかったと思います。個々の相談事例では、相談された方の助けになったことも多かったのではないかと思います。また、精神科医療従事者、支援者、弁護士、当事者など様々な立場の人たちが、そのときどきの制度の下で、どのようにすれば、精神医療における人権擁護を実現できるのかについて、アイデアを出し、議論し、苦闘してきた活動そのものが、大きな財産です。センターの重要な機能には、精神科医療と人権の問題について情報を集め、問題を検討し、具体的な解決策を探るということがあるかと思います。日本全体の精神科医療の制度が大きくかわらないままだとしても、個々の相談事例を通じて、精神科医療と人権の問題を地道に考え続け、試行錯誤と思考の記録を次の世代や新たな担い手へとつないでいく必要があるでしょう。東京精神医療人権センターが解散するべき時は、日本における精神医療と人権の問題が無くなったときでしょう。それまでは、前へと進んでいる実感がもてなくても、この問題を考え続ける場としての、センターを存続させていくことが重要なのではないかと思います。

今回の総会では、組織としてのセンターの再建を目的としました。現在のセンターの活動は、36年前のセンター設立時と比べても、控えめなものとなっていますが、ここからまた、少しずつ活動を拡げ、他の組織との連携も強化していければと思います。

総会で選出された運営委員と規約、第1回運営委員会で選出された役員は以下の通りです。ここから新たなスタートとなります。今後多くの方に、センターの活動にご参加いただければと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

【東京精神医療人権センター運営委員・役員】

運営委員=石原孝二、内山智絵、木村朋子、澤田恭子、内藤隆、中村美鈴、長谷川敬祐、尾藤昌子、星丘匡史、村上ひろみ、山本則昭(10名)

役員:(共同)代表=石原孝二、長谷川敬祐、会計=尾藤昌子、会計監査=内山智絵

 

【東京精神医療人権センター規約】

1条(名称)本会は東京精神医療人権センターと称する。

2条(事務所)本会の事務所は以下におく。  (略)

3条(目的)本会の目的は、以下のとおりとする。

(1)精神医療と人権に係る情報を提供するほか、相談活動、その他の諸活動を行うことにより、精神障害のある人の人権擁護をはかること。

(2)精神医療と人権に関する研究、啓発、研修、提言、出版、などの諸活動を通して精神障害のある人の人権擁護をはかること。

4条(事業)本会は以下の事業を行う。

(1)電話および手紙、面会その他による情報提供、相談活動。

(2)精神医療と人権に関する研究、啓発、研修、提言、出版などの事業。

(3)精神医療機関についての情報収集と公表の活動。

(4)その他本会の目的を達成するに必要な事業。

5条(組織)

(1)(会員)本会は、個人の正会員および団体・個人の賛助会員をもって組織する。

(2)(総会)本会は年一回の総会を開催する。必要に応じて臨時総会を開催できる。

総会では運営委員(若干名)を選出するとともに、運営に関する基本方針を決定する。総会の議決権は、個人の正会員のみが有する。

(3)(運営委員会)運営委員会は、役員を選出する。また運営に関する基本方針に基づき、運営に必要な事項を決定する。

(4)(役員)本会の役員は、運営委員会が互選により選出する。

役員は、(共同)代表(2名以内)、会計(1名)、会計監査(1名)とする。

6条(会費)本会の会費は以下の通りとする。

(1)(正会員)年間3,000円   (賛助会員)賛助団体 年間30,000円  賛助会員個人 年間 3,000円   ※割引制度あり

附則 本規約は1986315日より執行する。

附則2(全面改正) 本規約は2022327日より執行する。

【参照文献】

「おりふれ通信」No.11981年)、No.381985年)、No. 491986年)、No. 1131992年)

「東京精神医療人権センター活動報告」第1号(1986年)~第25号(2011年)

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なぜ精神医療人権センターが必要なのか

石原孝二

 

私は大学教員でもともとの専門は哲学ですが、現在は精神医学の哲学などを中心に研究しています。昨年の夏ごろから埼玉県精神医療人権センターの活動に参加し、今年に入り、東京精神医療人権センターや神奈川精神医療人権センターの電話相談にも参加させていただくようになりました。

精神医学や精神科医療を研究するようになり、精神科医療の利用者の方と多く接するようになって感じた素朴な疑問は、(精神疾患についてはまだよく分かっていないことが多いのに)なぜ精神科医や医療従事者は精神科医療の利用者の人生や生活を決めるようなふるまいをするのだろうか、ということでした。なぜ精神科医療の利用者は、容易に日常的な行動や将来への期待を制限され、人権を侵害されてしまうのだろうか、という疑問です。そうした疑問を抱きつつ精神科医療の研究などを続けてきましたが、あるとき支援の現場に関わりたいという思うようになり、精神保健福祉士の資格を取ることにしました。資格取得のためには精神保健福祉法などの関連法規を学ぶことになります。

精神保健福祉法の条文をはじめて一文一文確認してみた時の感想は、「これほどまでに人権侵害的な内容をもつ法律が現在の日本の法律として存在していることに驚愕した」というものです。医療保護入院に関する問題などは以前から知っていましたが、精神科病院が任意入院患者を含めた入院患者の行動を「医療又は保護に欠くことのできない限度において」制限できること、任意入院であっても72時間は退院させないでおくことができるなどを初めて知り驚きました。

精神医療人権センターの活動に参加してみると、この精神保健福祉法の規定すら守られていないのではないかと思うケースに遭遇します。行動制限が「医療又は保護に欠くことのできない限度」であるのかが個別に検討されたうえで課されているのではなく、単に病院の管理上の都合により決められているようにも思えることがあります・・・

<以下、全文は、おりふれ通信406号(2021年11月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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東京精神医療人権センターのホームページができました

東京精神医療人権センターは、2012年4月以来、事務所の閉鎖等活動規模を縮小し、電話相談と入院中の人への必要時の訪問・面会のみを細々と続けてきました。宣伝も、おりふれ通信に、おなじみの下の囲みを載せているくらいです。ホームページもなく「東京精神医療人権センター」でネット検索しても、ライフリンクなど他機関のサイトで紹介されるのみでした。

東京で人権センターの活動に参加したかったが見つからず、東京にはないのだと思って埼玉の精神医療人権センターに行ったという話も何人かから聞きました。

そんな一人の石原さんが埼玉に続いて東京のセンターにも参加。ほんとうにアッと言う間にホームページをつくってくれました。今は入院中でもスマホの持てる精神科病院もあり、多くの人はスマホで検索して情報を得る時代。細々といえどもせっかく相談活動を続けているのだから、そこをつかって宣伝し、利用してもらいたいとは思っていましたが、私たちにはハードルの高いことでした。

ホームページができて、明らかに相談件数は増えています。スマホユーザーではない年代の人、長期在院の人には届いていませんが、それでも一歩です。

ホームページのURLは以下のとおり。ご利用ください。

https://tokyo-seishin-iryo-jinken.jimdofree.com/

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埼玉県630調査 情報公開審査会意見陳述

埼玉県の精神医療を考える会/埼玉県精神医療人権センター  星丘匡史

 

2021年5月24日に、埼玉県の情報公開審査会で意見陳述を行いました。補佐人に長谷川利夫さん、代理人に高宮弁護士、請求人の星丘で行いました。埼玉県は、拘束指示数と隔離指示数のみ非開示という状況でしたので、拘束問題の第一人者である長谷川さんにも参加していただきました。

審査委員は、3名で弁護士と大学の先生でした。

長谷川さんは、豊富な資料と文献と拘束帯をもってきて、身体拘束の問題を語り、利用者が病院を選ぶ「医療選択権」を保障する意味からも情報開示は絶対的に必要と話されました。高宮さんは、今まで出ていた情報が出なくなるのはおかしい。また、都道府県によって条例に多少の差があるものの、情報公開条例の基本的な立て付けは同じなのに、東京や大阪で出ている情報が埼玉で出ないのもおかしいと話されました。星丘は、昔働いていた病院の保護室の様子を話し、この情報が出たところで大した影響はないが、隠すことによって病院の質は悪化すると話しました。

審査委員の一人は大きく頷きながら関心を持って我々の話を聞いてくれました。審査会がどのような回答をしてくるか楽しみです。と言うのも、開示しないようなら裁判を行いたいと思っているからです・・・

<以下、全文は、おりふれ通信403号(2021年7月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

 

 

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「ゼロ」からの再出発 〜神奈川の630調査情報公開請求〜

神奈川精神医療人権センター 稲川洋

 

(以下の原稿を提出した直後に、神奈川県の担当課から「全面不開示を見直し、部分開示の方向で再検討したい。」との電話がありました。既に審査請求も提出した後で、このような方針変更の連絡があるのは異例のことでしょうが、当面は県庁内の再検討の結果を待ちたいと思います。ただ、部分開示の内容も現時点では全く分かりませんし、一旦は全面不開示という決定が通知され、審査請求まで行ったことは事実なので、原稿は書き換えずに掲載していただきます。その点をご承知おき下さい。)

 

ちょうど1年前に発足したばかりの神奈川精神医療人権センター(以下「KP」)では、630調査についての初めての情報公開請求を行いました。それに対する神奈川県からの答えは、全くの「ゼロ」でした。神奈川県民としては誠に腹立たしく、また他都道府県の方々に対しては恥ずかしい限りですが、この際、恥をしのんで以下にご報告します。

 

1.「東京精神病院事情」との出会い

本題に入る前に私ごとで恐縮ですが、私の家族が精神疾患を発症した20年余り前、医療機関の情報が全く得られず、保健所などからの助力も得られないまま、孤立無縁の状態にありました。その頃、ふと見つけたのが「東京精神病院事情」(何年版かは覚えていません)でした。残念ながら神奈川県の住民である私には、この本による直接的な成果は得られませんでしたが、このように患者や家族の立場に立って書かれた本があるのだということは半ば驚きであり、干天に慈雨の思いでページを繰ったことを覚えています。どんな人たちがこういう本を書いているのだろう、なぜ神奈川県版がないのだろう、という疑問が長らくありましたが、その疑問が最近になってようやく解けました。一読者として、出版に当たってこられた皆様に感謝申し上げます。そして、神奈川県民にも役に立つ情報を何とか得たいという思いから、630調査の情報公開請求に携わることにしました・・・

<以下、全文は、おりふれ通信402号(2021年6月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

 

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神出病院事件問題の解決のために 第一回

吉田明彦(兵庫県精神医療人権センター、精神障害/双極性障害当事者)

 

はじめに

神戸市西区神出(かんで)町にある大型精神病院・神出病院(入院病床数465床)のB棟4階で起きた、看護師・看護助手らによってなされ続けた暴行・監禁・準強制わいせつ事件(※)のニュースは、瞬く間に全国の人々が知ることとなり、大きな注目を集めることとなった。

※ 医療法人財団兵庫錦秀会・神出病院で、同病院に勤務する男性看護師・看護助手ら6人が、入院患者たちに対し、男性同士でキスをさせる、男性患者の性器にジャムを塗ってそれを他の男性患者に舐めさせる、トイレで水をかける、患者を病室の床に寝かせて落下防止柵付きのベッドを逆さにしてかぶせて監禁する等の暴力行為を1年以上にわたって繰り返し、その様子をスマートフォンで撮影しLINEで回覧して面白がっていたというもの。被害者数は、当初3人と伝えられたが公判で少なくとも7人(検察は10人と主張)と認定され、公判で6人は暴行・準強制わいせつ・監禁等で有罪とされ判決確定した。

だが、この事件に関心を寄せる人々の間でも、現地神戸の我々と他地域の人々とでは、認識に少しズレがあるように見える。後者の多くにとって、事件は、裁判で加害者6人のうちの最後のひとりに判決が下された20201012日、あるいはそれが確定した同月26日に終わったものとみなされているのではないかという心配を我々は持っている。

そのような認識は事実・実情とまったく異なる。地元神戸では、事件を取材してきた神戸に支社・支局を持つ報道各社も、神戸市当局(健康局)も、議会(神戸市会)も、われわれ兵庫県精神医療人権センターを含む協力団体各方面も、そして、精神科病院協会や精神科診療所協会のような業界団体すらも、そのような認識は持っていない。狭義の「事件」の終わり、すなわち加害者職員6人の裁判の終結をもって幕引きとしたいのは、当該病院とその経営法人グループのほかには誰もいないのではないか。

 

常態化していた患者への暴力

まず、神出病院においては、虐待、いや暴力は当たり前のことであった。公判に出された供述調書や被告人らのことば、および神戸市当局が立ち入り調査を通して確認したところ(情報公開請求資料から確認)からは、患者に暴力を加えてはじめて一人前というような空気が病棟を支配し、若い看護師や看護助手はそれに染められていったことが明らかにされている。

刑事事件化された罪は「1年以上にわたって」という期間のものだったが、それより以前から、入院患者にあだ名をつけて呼び嘲弄する、ガムテープでぐるぐる巻きにして面白がる、車椅子に固定して倒す等々の暴力が、6人以外の多くの看護職員によって日常的に繰り返されていた、それがこの病院だった。

加害者のひとりは、暴行に加わりたくないと夜勤シフトを変えてくれるよう看護師長に求めたが無視されたと公判で供述している(この件について、神戸市当局も裁判より前に3月の時点で確認していることが、情報公開資料で確認される)。しかも、その拒絶の理由はその上司もまた暴力の加害者だったからだという。

刑事事件の被告人として裁かれた6人を除く他の暴力に加担した、あるいはそれを止めたり告発したりしなかった看護職員ら、医師ら、法人経営者らの責任はなおまったく問われていない。

私が、昨年7月2日放映の神出病院事件を扱ったNHK ETV「バリバラジャーナル どうなってるの?日本の精神医療」に一緒に出演して以来、交流させていただいている18年間同病院に入院し今は地域で一人暮らしをする男性、Tさんの話を紹介する。

音楽好きの彼が、決められた就寝時間以降もポータブルCDプレーヤーでイヤホンを使って音楽を楽しんでいたところ、看護師がそれをとがめ、それに反発したTさんを取り押さえようとして肘をぶつけ彼は歯2本を失った。ちなみに、彼はこの話を仕方なかったこととして淡々とする。元々、建設労働や船員として働く屈強な男だった彼がこれほどの暴力に対し抗議することを諦めるほどパワレス化されたという事実に、長期の社会的入院の惨たらしさや看護師による暴力の残酷さを思わずにはおれない証言でもある・・・

<以下、全文は、おりふれ通信400号(2021年4月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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ハーディング氏講演会「ヨーロッパの恣意的拘禁防止制度と新しい法的枠組み」

東京精神医療人権センター 木村朋子

 

2月号でお知らせした表記の講演会を、323ZOOMで視聴した。この講演は昨年春ハーディングさんが来日して行われるはずだったが、コロナ感染症の影響で1年延期されオンライン開催となったものだ。家にいながら無料でジュネーブにいる人の話がライブで聴ける。時間とやる気さえあれば、勉強の機会は無限大という今の時代をあらためて思った。

 

講演は冒頭、法改正を繰り返し、スタッフの人権研修を行い、地域でのサポートを充実させて退院促進しても、なお精神病院内での人権侵害は頻発しているという事実を確認する。そして障害者権利条約委員会とWHOは、権利条約(CRPD)に基づき強制処遇廃絶というパラダイムシフトを追求している と述べる。

 

司法精神科医であるハーディングさんが活動するCPT(拷問及び非人間的なまたは品位を傷つける取り扱い、刑罰の防止に関する欧州委員会)が、ヨーロッパ各国の精神病院、入管・刑事施設など、人が本人の意思に反して入れられる施設に、事前予告なく、いかなる時間であっても立ち入り、入所者と直接(立ち合いなしで)面会、診察し、カルテほか法的書類を閲覧する強い権限を持つことは、以前から小林信子さんに聞いていた(おりふれ通信199810/11月号に日赤看護大でのハーディングさんの講演録として小林さんが書いている)。しかし今回の講演で、CPTの活動は、ヨーロッパ評議会という欧州の国連のような組織の、閣僚委員会(2004年「精神障害者の人権及び尊厳の保護に関する勧告」を決議)、議会(決議に拘束力はないが47ヵ国からの324人の議員が目下の政治的・社会的問題について活発に議論し、改革のための発想が生み出される場であるという。ここで2019年に「精神保健における強制を終わらせる」決議がされている)、そしてとりわけ欧州人権裁判所と連動して、効果的な働きをしていることがよくわかった。

 

CPTは2018年~19年にかけて、欧州評議会域内47ヵ国のうち、34ヵ国を訪問し、精神病院への訪問は21ヵ国61病院にのぼるという。(2020年の訪問がコロナ禍でどうだったのか、聞きもらしてしまった。)内訳ではトルコ、ロシア8病院、ギリシャ6病院、フランス、アイルランド5病院などが目につく。訪問結果は、勧告を含む報告書としてその国の政府に送られ、政府は6ヶ月以内に回答しなければならない。これまでに立ち入り調査を拒否した、政府、施設はないという。

 

CPTと欧州人権裁判所との協働・相乗効果は、下の写真のように、裁判所がフランス、ストラスブールに牛のようにとどまり緩慢な動きではあるがどっしりと存在感がある一方、CPTは鷺のように自由にあちこち飛んでいき、牛のもとへ見聞をもたらすと例えられた・・・

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オンライン面会−はじめての経験

東京精神医療人権センター 飯田文子

 オンライン面会というものを初めて経験した。音声が割れてしまって、少し聞き取り辛かったものの、顔を見て話ができることは大きかった。

 前にこの病院に別の方を訪問した時には、主治医の指示で会わせられないと面会を拒否されたが、今回は主治医うんぬんの話はなくて、すんなりとオンライン面会となった。病院側としては、実際に会わせることとオンラインでは、オンラインの方がハードルが低いのか、それとも単に主治医の違いなのだろうか。

 オンライン面会の場所は事務室の片隅らしく、話の内容は側に居る人に伝わる環境と思われた。オンラインがつながると最初に病院の職員が現れ、制限時間は10分ですと告げられた。「話の切りが良いところまででいいですね」ということで、実際は30分近く話をした。

 入院者との話が終わると、また病院の職員が現れたので、次回の面会の予約をした。

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