東京地裁の敗訴判決から東京高裁の控訴審へ

精神医療国家賠償請求訴訟研究会代表 古屋 龍太         

 

1.はじめに

  精神医療国家賠償請求訴訟(以下「精神国賠」と記します)の経過については、これまでも本紙で何回も取り上げていただき感謝しています。他の方が既に書かれているように、裁判所の法廷を舞台に精神医療に係る様々な問題が問われてきました。ここでは、東京地裁判決後から控訴審開始に至る経過を報告します。

2.東京地裁における敗訴判決

精神国賠は2020930日の提訴以来、ちょうど丸4年後の2024101日に東京地裁における第一審判決が出ました。

地裁判決では、原告の入院形態その他の事実関係と、原告への権利侵害との因果関係については、被告国側の主張を全面的に採用し、原告固有の事情によるものとして国家賠償法上の請求を棄却しました。それ以外の争点については、検討するまでもなく原告の請求には理由がないとして、争点になっていた日本の強制入院制度や精神医療政策に係る一切の判断を避けました。想定以上の不公正で不誠実な不当判決でした。

判決報告会には、163名の方が参加されました。原告の伊藤時男さんは、「訴えが棄却され、不当判決だと思っています。社会的入院や施設症の人は未だに苦しんでいます。あの人たちに合わせる顔がない。国の責任を問い、最後まで、最高裁まで控訴して戦うつもりです」と挨拶しました。

判決に立ち会った参加者が最も違和感を感じ怒ったのは、判決文中の「公知の事実」という文言でした。厳格に法を適用すべき裁判所ですら、精神障害者に対する強制入院の必要性は「公知の事実」と断じ、当たり前という感覚で済ませています。この日本社会における精神障害者に対する人権感覚の鈍麻は、長年にわたる国策により作り出されてきたものです。裁判官を含む司法関係者とて、その例外ではないことを地裁判決は明白に示しました。狭い山道を縫って進むような精神国賠の裁判の難しさも映し出しているといえます・・・

<全文は、おりふれ通信441号(2025年3月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

問題のある病院での勤務を経験して

匿名精神保健福祉士

 

問題のある病院(仮にA病院とします)での私の経験についてお話をさせていただきますが、このA病院に関して憶測に基づいた確証のない情報を周知拡散する行為は絶対にやめていただきますようお願い申し上げます。

 

まず初日から驚きがありました。A病院では学歴によって給与が異なります。私自身の学歴については履歴書への記載はもちろん、面接の際も話題になりましたので、当然それに基づいた高い方の給与が採用されると考えておりました。しかし差し出された雇用契約書に記載されていたのは低い方の金額です。募集要項に記された条件を示しながら事務長に「間違ってますよ」と伝えたところ、「え?そう?それなら試用期間が終わったらその金額にするから、それまではこのままでいいね」ということで押し切られてしまいました。私の力不足であるのは承知の上です。ただ、こんなものは序の口に過ぎませんでした。

 

翌日から本格的な勤務が始まり、最初に任されたのは診療報酬の不正請求に関連する業務でした。それまでも長い間通常業務として行われていたらしく、入職2日目の立場でそれを丸々拒否することは当時の私にはできませんでした。上司に対して「これはやっていいことなのでしょうか」と何度か確認はしたものの、「どうなんだろうね」とはぐらかされるのみでした。退職の際、事務長へ「この〇〇〇〇のやり方は問題です」とお伝えしましたが、返ってきたのは「でも患者から苦情が出ているわけじゃないよね」という開き直りとしか考えられない発言でした。

 

最も衝撃的だった事件が起こります。私はまだ試用期間真っ只中で、外部からの連絡を受ける権限すらありません。

A病院は常に満床に近い状態をキープしている「経営的には」非常に優秀な病院ですが、その時期は若干の空床がありました。それが直接関係しているかどうかはわかりませんが、元入院患者であるXさんについて、次の外来に来たところで入院を告げ、そのまま病棟に入れるという方針を院長が決定したとのことでした。その入院が必要となる理由についても上司から聞きましたが、それは自傷他害等とは程遠いもので、なぜそれで入院になるのか私には理解ができませんでした。

迎えた当日、院長から入院を告げられたXさんは当然それを拒否します。「予定があるので無理ですよ。困ります」と極めて理性的に、全く暴力的な素振りは見せずに訴えていました。

この直前、私は受付近くのベンチに座っていたXさんと少しだけお話をしています。スマホでYouTubeの動画を観ていらっしゃったので、「〇〇が好きなんですか?」と聞いたところ、「好きです」と応えてくださいました。「お住まいはどちらでしたっけ?」という質問にも「〇〇です」と応えてくださいました。そもそも一人で問題なく通院できる方です。疎通も問題ありません。そして本当に穏やかな方なのです。

そうこうしているうちに、ある看護師が合流し、Xさんに優しい口ぶりでこう言いました。「じゃあ今日は検査だけしよっか」と。私の無知が心底恥ずかしいのですが、これを聞いた私は入院しなくて済むのだと素直に受け取ってしまいました。それが精神科病院で使われてきた常套手段だとは何も知らずに。

それから数時間が経過し、別件で病棟を訪れた際に見た光景は今でも脳裏に焼き付いて離れません。そこには数時間前に一人で来院し、YouTubeを楽しんでいた人物とは到底思えない、Xさんの変わり果てた姿がありました。車椅子に乗せられ、オムツを履かされ、表情からは完全に生気が失われていました。

別の職員に何があったのか聞きました。「Xさんは連れて行かれてすぐ注射。そのまま電気ショックだよ」ということでした。ちなみにA病院には麻酔科医がおりませんので、電気けいれん療法は修正前のものになります。周囲の看護師は「Xさんは待合で倒れちゃったことにしようね」と口裏を合わせていました。さらに驚くべきはその入院形態です。皆さんはどれに当てはまると思われますか。A病院では、これを「任意入院」として扱っております。

この事件以前から診療報酬の不正請求に加担することはできないという理由で、試用期間満了前に退職する意思はある程度固まっていましたが、ここで決心しました。そして問題はこの情報をどうするかです・・・

<全文は、おりふれ通信440号(2025年2月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

なんと5049筆もの署名が全国から集まりました!

滝山病院にアクセスする会

                                           細江 昌憲

 

 

 9月のおりふれ通信でも呼びかけさせていただいた、旧滝山病院(現希望の丘八王子病院)の生活保護の指定医療機関の指定を取り消すよう求める請願を1125日、八王子市議会に提出しました。ご協力をいただいたみなさんには感謝しかありません。本当に有難うございました。

 当初、みなさんにお願いした署名は陳情という形式でした。しかし、陳情では議会に上程されない事が多く、それを請願(紹介議員が必要)にすることで、必ず議会で審議されることを、後から知りました。このため、紹介議員になっていただくよう、八王子市議会各会派に依頼したところ、数名から賛同を得る事が出来ましたので、請願として提出することができました。

 今後、129日の八王子市議会厚生委員会で審議されます。公の場である議会で、滝山病院の虐待事件に対する行政処分が審議されることは社会的に大変意義のある事です。この委員会には、滝山病院にアクセスする会の伊澤雄一さんと山本則昭さんが出席し、請願の趣旨を説明する予定です。

 ぜひ、5,049筆ものみなさんの切なる声を受け止めていただき、全会一致で採択されることを願ってやみません。

 

「アナログにもかかわらず」

 今回の活動を開始した当初、どのくらいの署名が集まるか、全く見当もついていませんでした。「転退院は依然として進まないが、このまま黙っている訳にはいかない。とにかくやってみよう」という勢いそのままにスタートしましたが、日に日に署名が集まり、問い合わせも増えてきました。10月後半には1250筆以上が届くこともありました。

 

 「滝山病院事件には心を痛めていたが、何をしていいか分からなかった。今回の陳情に署名することができてよかった」という声を複数の方から頂き、みなさんのやり場のない怒りや悲しみは、まだまだ収まっていないことを痛感しました。

 2023年に2月に虐待事件が発覚してから18ヶ月以上が過ぎ、風化しても不思議ではない事件について、手書きの署名を集めて、自腹で切手を貼って投函、という昭和のアナログで面倒な作業にもかかわらず、わずか1ヶ月半で5,000筆を超えたことには、大きな意味があると思います。社会的にも無視できない数です。(八王子市の署名はネット、ファックス不可、自筆のみ有効)。

 また、地域的にも北海道から沖縄まで45の都道府県から集まりました。これは、「虐待事件を起こした病院を許さない」という日本全国からの強い声と意思の表れといえるでしょう。

 

「私達はここにいる」

 署名活動を盛り上げるため、1010日午後6時から同7時まで、JR八王子駅北口デッキで街頭署名活動を実施しました。これには精神障害当事者を中心に35名が参加、「滝山病院で虐待事件は終わっていない」、「滝山病院に入れられたのは私だ」と書かれたメッセージボードを掲げながら、「精神科病院での虐待を許さないという署名です」などと声を上げて道行く人たちに協力を求めました。

 精神障害に対する社会的理解はまだまだ広がっていません。無知による偏見、社会的な無関心は、その存在を否定することにつながります。

 そのような現状が故に、公衆の面前に出る事に消極的な当事者も少なくありません。それでも、意を決して駅前に出て、知らない人たちに署名をお願いしたり、ハンドマイクを持って自らの思いをふり絞る姿をみて、それらの声が僕には「私達はここにいる。同じ社会にいる」という静かな叫びのように聞こえ、思わず涙が・・・どうも最近もろくて困ります。

 なお、この街頭署名活動には、れいわ新撰組の天畠大輔参院議員も駆けつけてくれました。

 また、2020年に虐待事件が発覚した神出病院がある兵庫県でも同じ日に、神戸三ノ宮マルイ前で「虐待精神科病院を許さない」と有志によるスタンディング行動が実施されました・・・

<全文は、おりふれ通信438号(2024年12月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

講演会「虐待報道から1年9カ月 精神科病院 滝山病院はその後どうなったのか⁉」の報告

滝山病院にアクセスする会 山本則昭

 

11月16日に東京都国分寺市にて、滝山病院にアクセスする会(以下、「アクセスする会」と略)の主催で、表題の講演会が行われました。

第1部は、山本が630調査などの統計から見えてきた旧・滝山病院の問題について報告しました。(以下、数字は1年の動きがみられた最後の2016年630調査による)

死亡退院率の高さ 62%(全都単科病院平均3.3%)。統計で確認できた1986年(72%)からほぼ一貫して高い。65歳以上入院者率は55%(同平均51%)と、それほど高いわけではありません。

医療スタッフが極めて手薄 看護職は、常勤有資格者1人当たり16人(同平均3人)。無資格者、非常勤の率が高かった。常勤医師1人当たり患者数94人(同平均27人)、コメディカルスタッフ1人当たり患者数140人(同平均15人)です。

生活保護率の高さ 61%(同平均31%)。広範囲の自治体から生活保護受給者の受け入れを行っていました。

任意入院率が高い 76%(同平均56%)。虐待のあった病院での任意入院率の高さは、任意入院の形骸化を象徴するものです。因みに、昨年の東京都の意向調査で転退院を希望しながら入院継続となっていることは違法の可能性があります。

外来がない 2022年まで外来がありませんでした。これは、退院後通院してかかり続けることがないという異様な状態です。

次に、精神科病院での虐待事件が起き続ける構造的問題として以下のポイントをお伝えしました。 ①閉鎖環境の中での権力構造の増幅と人権意識の低下、②強制入院・強制治療を担保する法制度、③民間病院への依存は営利追及(人件費抑制・過剰医療)を招く、④収容所を必要とする医療・福祉・行政・地域社会・家族、⑤行政による監督の甘さ、そして⑥基盤としての障害者・精神病者に対する命の軽視・差別があります。旧・滝山病院はこれらの構造の中で、入院者の人権と命を軽んじ、飽くことなく利益追求を続けてきたと言えます。

第2部は、伊澤雄一さんが、「贖罪と矜持」と題し、アクセスする会の動きについて報告しました・・・

<全文は、おりふれ通信438号(2024年12月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

東京・綾瀬病院 退院請求報復に弁護士事務所に患者置き去り事件裁判傍聴レポート Part1

藤井雅順 

 2024年11月14日、東京地裁522号法廷で都内は足立区にある医療法人社団綾瀬病院を相手取った損害賠償請求訴訟(令和6年(ワ)第18052号)、第2回口頭弁論があった。原告は、精神科病院からの退院支援に取り組む弁護士2名。本訴訟では退院支援をする弁護士への業務妨害への法廷闘争である。当該事件の担当は、第49部乙ホ係。

11時、法廷が開廷した。裁判官は、裁判長の村田一広裁判官・野上小夜子裁判官・矢崎啓太裁判官の3名。書記官は高岸文弥氏であった。原告弁護側は4名。被告側は3名が対峙する。原告団側弁護士より法廷での意見陳述の希望が出され、口頭で本件事件での生々しいその全容が語られた。弁護士への相談のあった患者は、任意入院中の患者ではあるが帰住先のアパートが解約され帰住先の確保が必要であったという。そこで綾瀬病院側と面談し退院調整を進めることとなったが、2か月経過しても綾瀬病院から連絡がなかったという。そこで患者本人と相談して退院請求の申し立てに至る。アポイントなく被告の鈴木院長が弁護士事務所に患者を連れて訪れ、威圧的な態度で「責任を取れ!」と当該弁護士に迫り、被告からの報復の意味合いを感じさせるように弁護士事務所に置き去り、退去したとされる。置き去りにともない当該弁護士は緊急の対応をせざるを得なくなり、今回はなんとか退院当事者をグループホームへの入居に繋ぐことに成功したことが語られた。弁護士事務所には個人情報が保管されていることから宿泊させることはできない。置き去り事件当日、20時頃タクシーで当該患者の宿泊受入のグループホームに繋ぎ、21時頃までかかったという。弁護士業務の範疇の論題にも言及がなされた。そして、同様の退院請求への妨害が容認されてしまうと、弁護士が退院請求や退院支援をすることがむずかしくなるという問題、憲法の保障する人身の自由の保障のための実務の問題が指摘された。被告側は原告主張に対して意見陳述を希望。被告側は、帰住先の確保など生活環境が整えば退院させる意向だったという。次回の公判で被告より示される予定だ・・・

<全文は、おりふれ通信438号(2024年12月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

精神医療国賠訴訟の第一審判決のご報告

弁護士 長谷川敬祐

 

1 はじめに

 伊藤時男さんを原告とする国家賠償請求訴訟は、2020930日に東京地方裁判所に提訴し、約4年間の審理ののち、2024618日に結審となり、2024101日に第一審判決がなさました。その第一審判決の結果を皆さんに報告させていただきます。

2 第一審判決の概要

 第一審判決では、原告の請求は棄却されました。その理由は、要旨、①原告の入院形態の立証が十分とは言えず、同意入院、医療保護入院、任意入院といったそれぞれの入院形態を前提とする原告の主張は前提を欠く、②原告の入院が長期化した原因は原告側の事情にあり、また、ある時期からは入院が原告自らの意思選択されたものであるから、原告が必要もないのにその意に反して長期入院を強いられたと認めることはできない、というものでした。もう少し詳しく説明します。

 まず、第一審判決を理解する前提として、原告側の主張の要旨を改めて整理します。原告側は、前提事実として、原告の入院形態が当初は同意入院、医療保護入院であり、後日、任意入院に切り替わったもの、入院の長期化によって退院の意欲を奪われ、長期入院を強いられたことを主張しています。そのうえで、①同意入院及び医療保護入院制度は、その目的の合理性、判断能力要件の不明確性、手段が最小限のものではないこと、強制入院の要件の不明確性、適正手続きの不十分さ等から、憲法18条、31条、33条ないしは39条、22条1項、13条、14条に違反すると主張し、さらに、②任意入院制制度も、真の任意性を担保する仕組みがないこと、退院制限規定も存在すること、処遇も制限されるものであること、にもかかわらず審査等が不十分であることから、憲法18条、14条等に違反すると主張しました。また、③いわゆる精神科特例制度についても、適正な医療を受ける権利を侵害するものであり、憲法13条、25条、14条に違反すると主張し、さらに、④それ以外にも、国のこれまでの精神医療政策によって長期入院者の権利侵害状態が生じていることを主張しました。そして、上記①や②の違憲状態が明らかであるにもかかわらず、法律の条文を改廃しなかった国会議員は国家賠償法1条1項の違法の評価を免れないとし、また、上記③の精神科特例の廃止をしなかった厚生大臣等は、医療法の法令における厚生大臣等の裁量権を逸脱したものであり、国家賠償法1条1項の違法の評価を免れないとし、さらに、上記④に関し、国の先行行為によって憲法上の根幹的な人権の重大な侵害が生じているのであるから、厚生大臣等は、これを解消するために、入院中心医療から地域中心医療への政策転換義務、精神病院に対する指導監督義務、入院治療の必要性がないのに入院を強いられている人に対する救済義務を負うにもかかわらず、これを怠ったのであり、国家賠償法1条1項の違法の評価を免れないと主張しました。これらの国会議員や厚生大臣等の義務が履行されれば、原告が早期に退院できたことは、原告の病状や現状等から明らかであるとし、国は原告に対して賠償義務を負うと主張しています。

 これに対して、第一審判決は、前述のとおり、原告の診療録等に入院形態が記載されていないこと等を理由に、同意入院、医療保護入院、任意入院といった入院形態の原告の立証は十分ではないとし、医療保護入院、任意入院の憲法適合性を判断する前提を欠いている旨を判断しました。すなわち、同意入院、医療保護入院、任意入院の違憲性について、これを全く触れずに原告の請求を棄却したことになります。また、第一審判決は、原告の主張を「結局のところ、国会議員又は厚生大臣等の不作為により、必要もないのにその意に反して長期入院を強いられたことをもって、国賠法上の違法と主張しているもの」と解したうえで、次の理由をもってそのような事実は認められないとしました。すなわち、(ⅰ)約40年間のうち、カルテ上における、わずか2回程度の原告が妄想を自認する行為や、1年に1回なぜか(体調が)悪化するといった記載、今年は去年のように急性増悪がないといった記載、1989年と2004年に隔離措置が採られた記載があることをもって、「原告には、統合失調症によるものと考えられる妄想等の症状があり、周期的に病状の悪化と軽快を繰り返し、時に症状の急激な悪化があった事実が認められ、入院の長期化は、こうした原告の症状のためであった可能性がある」とし、さらに「統合失調症などの精神疾患を有する患者については、他の疾患と異なり、その症状・病状による影響で判断能力自体に不調を来すことがあり、患者本人が適切な判断をすることができず、自己の利益を守ることができないと医学的な見地から認められる場合には、本人の利益を守るために、本人の同意がなくても入院が必要になる場合があり得ることは公知の事実」であるから、原告の症状のために入院が長期化したのであれば、それで制度の問題とも精神医療政策の問題であるとも言うことはできないとしました。また、(ⅱ)原告の退院について、カルテ上の記載において家族が消極的な意向を示していることをもって、病院が退院先の調整ができず、退院の手続がとられなかった可能性があるとし、それが原因で入院が長期化したのであるとしたら、それも制度の問題とも精神医療政策の問題ともいえないとしました。さらに、(ⅲ)原告がカルテ上の「退院して働く夢はもう、なくなりました。栄養作業するより、毎日レクやOTをして楽しく暮らそうと思って」等の記述を引用し、原告の入院の選択は、消極的なものであったとしても、原告自身の意思によるものであり、加えて、退院したいとの意向を病院職員に伝えていたものの、退院請求等の救済を求めていないとし、上記(ⅰ)から(ⅲ)のとおり、国会議員又は厚生大臣等の不作為によって、原告が必要もないのにその意に反して長期入院を強いられたと認めることはできない、と判断をしました・・・

<全文は、おりふれ通信437号(2024年10・11月合併号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

精神国賠研と私

根間 あさ子

 幼い頃に辛い入院経験を持つ私は紆余曲折した人生を送ってきたが、60代になってようやく穏やかにのんびりと地域のNPOで精神障害を持つ利用者さんと布小物を扱うB型事業所で楽しく働くことが出来ていた。

 その頃、病棟転換型居住施設というとんでもない施策が打ち出されて、私は人生でやり残しをしていることを思い出した。

 私は長い引きこもりから脱して夜間大学で学びながら働いていた80年代の精神病院で、長期社会的入院者と出会い衝撃を受けた。そしてこの国の精神医療の劣悪さ、精神障害者への偏見と差別に満ちた精神医療の構造に立ち向かう力のない自分に見切りをつけた私は、まずは自分の人生を生きることを選んだ。彼らと出会うまでは自分に当たり前の人生を生きる資格などないと思い込んでいたのだ。いずれ再発したら自分で自分がわからなく前に死ぬと決め込んでいた。しかし精神病院に、20年、30年と閉じ込められている彼らの人間性に触れて、私は、精神障害は人間性を損なう病ではないと知った。その過去の自分を思い出したのだ・・・

<全文は、おりふれ通信437号(2024年10・11月合併号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

半世紀ぶりの政策転換の“チャンス”を確実に活かすために(後編)

氏家憲章 

3.      ベルギーの「病院改革」

「病院改革」は政策転換時の「経営問題」と「雇用問題」を解決する政策です。

 

(1)「病院改革」のポイント

在院患者を地域に移す(政策転換)には、地域の受け入れ態勢の整備など年単位の時間が必要です。ベルギーは日本と同様に病院への支払いは「出来高制」(患者数に合わせて入院料を支払う)です。在院患者減に伴う長期間の入院収入の減収は、病院経営に大きな影響を与えるため、病院経営者は政策転換を理解しても躊躇します。「病院改革」はこの問題を解決する政策です。精神病院が国の政策転換の方針に従って病床を削減する時、①国は、病院へ廃止する病棟の定床分の入院料全額を5年間補償します。病棟の患者が“減ってもゼロになっても”定床数の入院料を全額支払います。入院料補償は5年でなくなりますが、6年目からは「アウトリーチ(ベルギーでは「モバイルチーム」)の取り組みに“入院料補償分”全額が支払われます。病院にとっては、入院料収入が外来収入(アウトリーチの取り組み)に替わることです。国の精神医療費総額は変わりません。お金の使い方を変えたのです。②病院は廃止する病棟の職員で「アウトリーチ」を設置します。発病から1か月間毎日訪問する「急性期のチーム」と1ヶ月以降も支援が必要な人には週に2~3回訪問する「慢性期のチーム」です。精神病院が数万人の人口のキャッチメントエリア(責任地域)の精神医療に責任を持って対応します。精神病院が入院中心から地域ケア中心へ機能転換です。病院職員は「アウトリーチチーム」に移っても、職員の身分も待遇も精神病院のままです。アウトリーチチームに移る職員には、安心して地域で働けるように年間7千万円(日本の人口換算で)使用し研修をしています。

 

(2)「別の道」を知っていたベルギーの医療労働者

 ベルキー視察時、私はベルギーの医療労働組合の役員と懇談しました。組合役員は『ベルギーは日本と同様に、精神医療政策も精神医療の実態も入院中心の精神医療です。しかし、私たちは30年前から“地域ケア中心の精神医療”を願っていた。その思いは年々高まっていた。ベルギー政府が2010年からの「病院改革」を発表した時、「私たちの思いが実現した」と思った』と語りました。また『ベルギーは首都のブリュッセルからパリやベルリンには日帰りで行ける。イギリスには飛行機で2時間、EUには国境がないので自由に行き来できる。そのためあらゆる情報は自然に入ってくる。精神医療も同じ、私達は30年前から地域ケア中心の精神医療の認識ができていた』と語ったことに驚きました。日本では、精神医療関係者だけでなく、日本の社会も、地域ケア中心の精神医療について認識の共有ができていません。この違いは、半世紀前から地域ケア中心の精神医療へ転換した周辺国があるベルギー、周辺国がないため情報が入らない日本と、地域性の違いを痛感しました…

<全文は、おりふれ通信436号(2024年9月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

虐待事件を起こした病院には厳しい処分を! 生活保護の指定医療機関の取り消しを求める陳情への署名をお願いします

滝山病院にアクセスする会

 共同代表 細江 昌憲

      伊澤 雄一

 東京都八王子市の精神科病院、滝山病院で虐待事件が20232月に発覚しました。精神科病院の虐待、暴行事件は、つい最近も20245月に神奈川県立精神医療センターで心理的虐待が報道されたほか、兵庫県の神出病院(2020年)、静岡県のふれあい沼津ホスピタル(2022年)など、日本全国、枚挙に暇がありません。しかも、これらの精神科病院は、未だ、廃院することなく、存続しています。これは誰が聞いてもおかしいと考える現実です。

滝山病院は202492日、理事長及び院長が交代することを発表しました。しかし、新体制になったからといって、虐待事件の事実が消える訳ではありません。八王子市は可及的速やかに、滝山病院の生活保護の指定医療機関の指定を取り消すべきです。

 これまでに、不正請求以外で生活保護の指定医療機関の指定が取り消されたことはありません。不正請求はお金の問題ですから、お金で解決できます。しかし、虐待は、命やその人のその後の人生にかかわる大きな問題です。被害を受けた方(家族などの関係者も含む)の心身の回復は、相当の時間がかかるだけでなく、以前の生活を取り戻すことができないかもしれないのです。虐待事件は不正請求よりも重大な問題なのです。

今回、指定が取り消されれば、日本全国の精神病院に対して、社会は虐待を絶対に許さない、という強いメッセージになります。これまでの痛ましい虐待事件を二度と繰り返してはなりません。ここが正念場なのです。

 

ぜひ、個人、団体、所属や立場を超え、滝山病院の指定医療機関の取り消しを求めましょう。全国から声を集めましょう。

|

NCNPの入院者訪問支援員事業説明会に参加して

根間あさ子


 8月1日の夜藤井千代氏はじめ、NCNP(国立精神神経医療研究センター)の入院者訪問支援員研修関係者?による人権センター相談員への入院者訪問支援員事業説明会に飛び入り参加をして自分もけっこう喋ってしまった。藤井さんが説明してくれた内容での支援員であるなら、2人一組での訪問者のうち一人はピアであったほうが望ましいように思った。欧米でいわゆる「経験専門家」という立場を日本でも確立するためにも、この制度はピアを積極的に募集し育てるべきではないか。アドボカシーという観点からも、精神疾患を経験していることに加えて、病院に強制入院させられていることへの患者の心情に自然と共感出来るのがピアの最も大きな強みである。
 

 私が加わってきた八王子における病院訪問事業では、独自の養成研修を受講した者や、地域の事業所でピア活動をすることにふさわしいと推薦を受けた者が参加してきている。そして病院訪問活動をする中でのピアたちの疑問や不安を解消するために、定例的な会合を持って互いのケアと研鑽を重ねてきている。この会合にはコーディネート役の職員も加わっているが、彼らはオブザーバー的な参加で基本はピアの主導による会合である・・・

<全文は、おりふれ通信436号(2024年9月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

|

より以前の記事一覧