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医療のDX(デジタル)化はバラ色の未来なのか?

【編集部から】マイナンバー保険証のオンライン確認で、医療機関どうしで患者さんの病名や処方内容などのデータが共有できることについて、さらに進んで将来電子カルテが医療機関どうしで共有された場合の危険性について、一人の精神科医(精神医療ユーザーでもある)から、特に当事者のみなさんはどう考え、行動されるのかという投げかけがありました。以下掲載しますので、当事者の方に限らずご意見などを寄せてくださるようお願いします。

 

きちんと考えがまとまりきっていないので、思いつく順序で書いてみます。

まず、基本的に、個人の医療情報は、そのひとのプライバシーなので、慎重に取り扱うべきであるという観点が、厚労省など、医療DX化を推進するひとたちには、きわめて薄いのではないか、ということ。

一般論としても、セキュリティーの問題が非常に不安。現行の保険制度をつかって、ひとつの医療機関にかかったら、自動的に他の科にも、その情報が行くのが便利でいいことであり、コスパもタイパもいい、精神科の薬をのんでいることもわかるからのみあわせの問題もわかっていい(これは言えるが)と、いいことづくめのような言われ方をされている。本当にそうなのか。

 

現時点では、マイナ保険証を使った場合、共有したくない情報については拒否することができるのだが、機械の質問の読み方で誤解してしまうと、共有に同意せざるを得ないように誤解してしまう。

そして、同意した場合、共有されるのは、1か月前のレセプト病名(保険上の病名)、処方薬剤、受診した医療機関名、受診月日、など。

わざわざ、紹介状、医療情報提供書のやりとりをしなくてすんで便利、という考え方もあるが(救急搬送された場合などは、内服薬の問題は大きいので理解できるが)、医療機関名、病名、処方薬のみをみた他科の医療従事者に、精神科通院中の方が、不利益な扱いをされてしまうことは、ありえることで、そのことを心配している患者さんは、多くいらっしゃる。

マイナと関係なく、以前からあることだが、身体症状を訴えて受診しても、すぐに身体疾患の診断がつかない場合、ほかの可能性をまともに探らずに、精神科心療内科を受診している人は「精神的な問題でしょう」と片付けられがちで、まともに扱われない。あるいは「精神科の薬のせいでしょう」などと、今までの流れを無視して言われがち。(精神科の薬なら、なくてもいい、簡単に減らせる、となぜか他科の医師に考えられがち)

それと、大きな声ではいえないが、レセプト病名は、最善と思われる処方にするために、保険適応が通るように便宜的につけられている病名もある(実際の診断名とはちがう)ので、うのみにされても困る。(これは、精神科に限らず)不安が強く心気的でいろんな医療機関を次々に受診していたり、うまく症状を伝えることが難しい人もいるが、そういう方は、本人の了承の上での情報提供書のやりとりか、誰か支援者が同行する方が有益と考える。

近い将来、電子カルテが義務化されると言われており、その目的のひとつが電子カルテの医療機関どうしの共有化(と政府?によるビッグデータ集め?)のようだが、こちらのほうが、私が非常に危惧していること。

精神科の診療では、患者さんが、様々な事象や対人関係についての自分の感情や葛藤、過去から現在までの自分の歴史、などさらけ出す(もちろん、すべてを語るわけではないにしても、たとえ1割未満にしても)ことをしている。自分の「内心」を語るもの。

そのすべてがカルテ記載されるわけではないにしても、カルテの記載内容も、他科とちがって、本人の訴えや治療者とのやりとりについてが多いので、他科のような「客観的」「中立的」「事実そのもの」的にはなりえないし、記載する治療者による「ひとつの視点にすぎない」と言ってもよい。(カルテ内容を絶対視されすぎても、危険だと思う)

また、精神科カルテが、他科の医師あるいは医療従事者に簡単にみられてしまう、みられる可能性がある、ということは、自分の内心を必要のないときに他者に隠しておく自由を奪われる、いわば「究極の個人情報」が漏れ、「個人の内心の自由」を侵害されるように感じられる。

もちろん、「共有に同意しない」という選択肢は、おそらくできるはずだと思う。でも、「共有が前提」という制度の中で拒否すると、そのことで不利益が生じないのかどうかが、不安。少数派のわがままとして、「共有を拒否するひとは、治療上の不利益が生じても致し方ない」で、どんどん制度が進められてしまわないだろうか。

 といったことを皆さんは、不安に思いませんか。

 

 

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ピア・レスパイトとは?

松田 博幸

すでに精神科病院に入院している人が地域で暮らせるようにするということは、いうまでもなく、とても重要なことであるが、加えて、地域で暮らしている人たちが精神科病院に入院せずにすむようにするということもとても重要だと思う。そして、後者を実現するにはどうすればよいのかを考える際に、アメリカにおいて、当事者の運動から生まれ、展開されるようになったピア・レスパイト(ピアラン・レスパイトとも呼ばれる)について知ることが、とても参考になるのではないかと思う。以下で、ピア・レスパイトとはどのようなものなのかを示すことができればと思う。

個人的なことから書き始めたい。

一昨年の11月に長年連れ添った連れ合いが突然倒れた。私は救急車を呼び、連れ合いは病院のICUにおいて意識のない状態で治療を受けることになった。てんかんの発作とのことだった。状態はどんどん悪くなり、いつ亡くなるかわからない状態になった。ほぼ奇跡的に命は取り留め、その後意識は戻ったが、脳が委縮し、私のことも含め、記憶がほとんどなくなってしまったことがわかった。その後、状態が悪くなり、身体は動かなくなり、言葉を発しなくなった。現在は寝たきりで、意思疎通ができない状態で施設に入所している。

精神医療、精神保健福祉の領域においてクライシス(危機)という言葉が使われる。ようするに、心の調子が崩れてどうしようもなくなる状態のことであるが、一連の出来事を通して、私はクライシスを何度となく体験した。それまで当たり前に存在していた「日常」が壊れてしまった。そして、常識的な考えや価値観がまったく役に立たなくなってしまった。住み慣れた家を焼け出されたような感覚をもつようになった。「日常」や「常識」とは違う何かを頼りにしないと生きていけなくなったが、その「何か」を自らの手で見つけ出す、あるいは、創り出すしかなくなった。

 そんななか、私の助けになったのは、他の人たちとのつながりや、苦しい状況を生きのびた人たちの言葉だった。薬も役に立ったが(抗不安薬のおかげで、自分の状態を他の人たちに向けて書くことができた)、大きく役に立ったのはそれらだった。

 また、生きるというのはどういうことなのか、生命(いのち)とは何なのか、意思疎通のできない人とどうやってつながればよいのかなど、「常識」は答えを出せない問いに自分で取り組まざるをえなくなり、そうすることが私の生活や人生そのものとなった。世界観が一転した。

 私がそのような状況に置かれているなか、このたびピア・レスパイトに関する原稿の依頼を受けたことは、何かの縁があったようにも感じる。なぜなら、ピア・レスパイトというのは、まさしく、人が体験する、以上のような状況に対応するものだからだ。

 アメリカにおいて展開されているピア・レスパイトは、人がクライシスにあるとき、短期間滞在し、精神科病院への入院を回避することができる場であるが、クライシスの体験をもつ当事者がスタッフを務め、当事者主導で運営されている。医療の場ではなく、病院とはまったく雰囲気が異なる。私も実際に訪問したが(アメリカ、ニューヨーク州の「ローズ・ハウス」)、病院とはまったく異なる場で、人が安心して休息できる場だと強く感じた。(トイレを借りたが、小さなプレートが置かれており、「希望」(Hope)という文字が描かれていたのも印象に残っている。)

2020年に、アメリカにおいて、全国にあるすべてのピア・レスパイトを対象として実施された調査(「ピア・レスパイト基本概要調査」(Peer Respite Essential Features Survey)によると、14の州で計32のピア・レスパイトがあり、27が当事者運営の組織によって運営され、3つが自治体(州、郡、など)によって運営され、2つがそれら以外のサービス提供組織によって運営されていた。予算については、半分を超える18$200,000-$499,000に分布しており、各ピア・レスパイトの資金源の割合を平均すると、最も割合が大きかったのが州政府(メディケイドは除く)であり(53%)、ついで、郡などの自治体であった(28%)。滞在可能な定員は、最少が2人、最多が20人であり、平均は4.6人(中央値は4人)だった。また、滞在可能な日数については、1つが最長日数を定めていなかったが、残りの31については、最短が5日、最長が30日、平均は8.5日(中央値は7日)だった。

次に、ピア・レスパイトで何が生じているのかを述べたいが、何を述べればそれがもっともよく伝わるのだろう? まず浮かぶのは、ピア・レスパイトに滞在した人の体験談を紹介すること・・・・・・

<全文は、おりふれ通信442号(2025年4月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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