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精神科病院には退院支援義務がある

精神保健福祉士 細江 昌憲

 

東京都日野市の七生病院に入院中にコロナに感染したAさん(女性、50代)が、適切な医療を受けることもなく監禁され、精神的苦痛を受けたと、同病院を訴えた裁判が5月9日から始まった。

この裁判は、劣悪な環境下における監禁だけでなく、任意入院のAさんに対し、病院側が退院支援義務を怠っていたとし、不法行為責任を追及している。なぜ、監禁というおぞましい行為が、安心、安全であるはずの病院内で起きたのか、なぜ、感染する前から退院を求めていたAさんの思いがいつまでも放置されていたのか、精神病院が抱える構造的な問題が裁判で明らかになることを期待したい。

 

「監禁の状況」

Aさんは2021年3月10日にコロナに感染し、即日、ナースコールがない部屋(和室、畳)に6名のコロナ陽性患者とともに10日間も監禁された(南京錠で施錠)。身体的ケアは受けられず、また、入浴や歯磨きも一切できない、排泄は、ポータブルトイレが中央に置かれるだけという、劣悪な環境で、また、その部屋は、大声を出してもナースステーションに声が届かない位置にあった。このため、監禁されていない入院患者がたまたま通りかった際に「水をください」、「トイレがあふれています」などと叫び声をあげ、扉をたたくなどして呼び止め、看護師を呼びに行ってもらうしかなかったという。

この耳を疑うような有様について、担当弁護士は、「悪臭の充満する部屋で阿鼻叫喚ともいえる状況に置かれていた」と話している。これが病院のやることだろうか。

さらに、酷なのは、この部屋から、いつになったら出られるのか、全く知らされていなかったことだ。辛い、きつい状況に置かれたとき、その苦しみからいつになったら解放されるのかわからない、先が見えないほど残酷なことはない。Aさんだけでなく、監禁された方々が絶望のどん底で過ごしていたことを想像すると胸が詰まる思いだ。

このような病院の行為に対し、Aさんは人間の尊厳さえ完全に否定される苦しみを味わったとし、200万円を請求している。この額については、同様の裁判の判例などを参考にしたという…

<以下、全文は、おりふれ通信412号(2022年6月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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オンラインシンポジウム「精神科サバイバーの経験と『統合失調症』というラベル(ヒアリング・ボイシズ?『統合失調症』?スキゾフレニア?)」開催の経緯と振り返り

松本葉子

 

2022年4月2日にODNJP(オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン)主催オンラインシンポジウム「精神科サバイバーの経験と『統合失調症』というラベル(ヒアリング・ボイシズ?『統合失調症』?スキゾフレニア?)」が開催された。ヒアリング・ボイシズ・ネットワーク・イングランド議長のレイ・ワディンガムさん、デンマーク・ヒアリング・ボイシズ共同設立者のオルガ・ルンシマンさん、日本からは京都の高木俊介さんがシンポジストとして参加された。

 この企画のきっかけは、フィンランドケロプダス病院の看護師ミア・クルティさんに、私が「統合失調症とは何なのか?」分からなくて、相談したことにあった。私はその頃、「あなたは統合失調症ではなくて複雑性PTSDだった。」と言われたばかりの頃で混乱していた。私にはその時までに「自分は統合失調症だ」と信じて生きてきた15年ほどの年月があった。「統合失調症」は確かにMRIや血液検査など、目で見ることはできず、実体もよく分からないものだったけれど、私は、「自分は統合失調症なんだ」というくさびとともに生きてきた。15年には、そのくさびによる痛みや苦しみや、不自由さがあった。だから、突然それは間違いだったのだと言われてしまうことは、15年ほどの年月さえもが否定されてしまう感覚がした。そういった悩みをミアさんに打ち明けると、ミアさんから、生きた経験を持つ人としてオルガ・ルンシマンさんとレイ・ワディンガムさんをご紹介いただけた。お2人は、「声が聞こえる」という自分自身の経験を、精神医学から押し付けらた「疾患」の物語に回収されることに異議申し立てをするような運動をされていらっしゃる方だと私は認識している。

 もう一人のシンポジストである高木俊介さんは、日本で以前は「精神分裂病」と言われていた名称を変更するにあたって「統合失調症」という名前を考えた人だ。高木さんは実際にも私の父親くらい年が離れていて、私のくさびの名づけ親だと思っている。私は高木さんから、その名前を考えたときの思いをシンポジウムでお聞きしたいと考えた。

 4月2日のシンポジウムが開催された背景にはそういったことがあった。おりふれ通信を購読されている方の中にも「統合失調症」や他の様々な精神医学の「疾患」の名前をつけられた方がいらっしゃるのではないかと思う。しかし、その名前は、自分の本当の名前のように、なぜ、その名前がつけられたのかを考え始めると、よく分からなくなるのではないかと思う。精神医学の「疾患」は、腫瘍や細菌のように検査で見えるものではない。実体は見えないのだから、本当は名づけた人と率直に話し合う機会が必要なのだけれど、その機会は不足しているのではないかと思う。

 シンポジウムでは、まず、高木さんから、名づけの際の率直な思いがシェアされた…

<以下、全文は、おりふれ通信412号(2022年6月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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