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私たちにできることを問い直す② ―地域でくらすための東京ネットワークの活動―

特定非営利活動法人こらーるたいとう 加藤真規子

 

1.地域でくらすための東京ネットワーク

 『地域でくらすための東京ネットワーク』は、2015年に病棟転換型居住系施設に反対する集会を開催した実行委員会が、今後も精神医療の改革を市民運動として続けていこうと立ち上げた会である。もともと様々な障害者団体や市民運動に参画していた人々が多く、精神医療の改革、精神障害者の人権侵害についてはもとより障害者の自立生活、就労、インクルーシブ教育、障害者欠格条項など障害者が抱える課題に取り組んできた経験と人との繋がりを持っている人々が多い。

2.NHK ETV特集『精神科病院×新型コロナウィルス』を見て

 202111月のミーティングで、NHK ETV特集『精神科病院×新型コロナウィルス』のビデオを見て、感想を述べあった。「この過酷な現実は東京のことだ。東京で生きる者として、何かしたい」「沖縄の人々はあんなに一生懸命動いているのだから」という意見で一致した。1221日、話し合いを求めて、東京都福祉保健局・精神保健医療課に質問状(資料参照)を提出した。202217日。精神保健医療課へ電話すると、「個別事案にはお答えできない」と、質問状へ答えること、そしてそのための話し合いを持つことも拒否された。

3.東京都との話し合いを実現させるために

 私たちは各会派の東京都議会議員に働きかけを始めた。数週間後、東京都だけの問題ではないので、超党派の国会議員にも働きかけを始めた。「地域でくらすための東京ネットワーク」の仲間は、何らかの障害があり、労働者として働いている者が多い。この東京都都議会議員、国会議員、市区町村議会議員への働きかけを一生懸命してくれて、繋がりを作ることに奔走したのは、ヘルパーをしているHさんであり、全てのことに責任を持って取り組んでくれたMさんであり、視覚障害がり、鍼灸師をしているKさんであり、脳性麻痺者のTさんだった。この方々の動きが、活動の基盤となっている。

2022年1月半ば、国会議員事務所から都議会関係者に話を繋げて頂き、東京都の医療安全課に働きかけてもらうことができた。医療安全課は「交渉に応じてもいい」といってくれた。しかし精神保健医療課は「交渉には応じない」との態度だったので、医療安全課も結局は「交渉には応じられない」といってきた。理由は精神保健医療課がいっている「個別事案には応じられない」というものだった…

<以下、全文は、おりふれ通信411号(2022年5月号)でお読み下さい。ご購読(年間2,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>

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投稿 長野精神医療人権センター設立の経緯と現状、課題

長野精神医療人権センター代表 東谷 幸政

 

 はじまり

私が東京地域精神医療業務研究会のメンバーとして東京の精神科病院への立ち入り調査を繰り返していた頃、東京都多摩市の桜が丘記念病院で私の訪問調査に対応して下さったのが中谷真樹医師だった。

精神科病院への訪問調査の結果は、「東京精神病院事情」という冊子にしてまとめて、当事者や家族が精神科病院を選定するときの参考にしていただいている。

 私が定年退職して間もなく、長野県に移住すると、甲府の住吉病院に院長として中谷さんがおられた。私が長野県で、中谷さんが山梨県で、それぞれ人権センター設立運動を進めて、最終的には2つの組織を合体させて、甲信精神医療人権センターにしていこうという構想を二人で作った。

事務局、相談員、協力弁護士などを隣県で融通させれば、少ないマンパワーと資金でも回せると考えた。残念ながら、両県ともに運動の蓄積がなく、精神医療人権センターの必要性についての認識は全く無い。

運動のスタート

 長野県に移住してから知り合った当事者の方に呼びかけて、「長野県の精神医療福祉を考える会」を立ち上げたのは2016年の秋。スタートメンバーは4人。当事者が2人、元中学教師の市民が1人。そして私。

 毎月1回、第1日曜日に長野県富士見町の私の自宅に集まり、例会を開催した。

長野県には駒ケ根市を中心とした地域のネットワークが以前はあったが、現在は消滅しており、一から組織を作らなければならない状況だということがわかった。活動を継続しているのは、ピアサポートの当事者ネットワークと地域家族会で、ソーシャルワーカーのネットワークは極めて弱体であった。地域の研究会などのネットワークも見当たらなかった。

 2年ほど毎月の例会を開催したがあまりメンバーは増えず、人権センター作りの展望は見いだせなかった。このためイベントを開催して広く仲間を集めようという事になった。

これまでの活動とこれから

1.2018年の12月に松本で「オープンダイアログ」の映画上映会を開催した。

精神科病院への強制入院体験を持つ当事者2名の方から長野県における精神病院入院体験をお聞きした。私からは、東京での病院訪問調査活動の報告と、民間人権センターの必要性を訴えた。参加された当事者や家族から、悲惨な報告が相次いだ。あまりにも不当な入院が横行している長野県の実態が明らかにされた。約70名の方が参加し飛躍的に会の活動が広がった。以降、毎月の例会参加者は倍増した。

2.201912月に、南松本で甲府の住吉病院長の中谷真樹さんと同病院のソーシャルワーカーの小川瑛子さんのお話を聞く講演会を開催した。

中谷さんからは住吉病院の実践報告、特にオープンダイアログ、WRAP、家族会、減薬支援の活動を中心に話を伺った。小川さんからは地域で暮らす障害者支援の報告を頂いた。参加者は50名。

3.2021年4月、精神病院勤務の経験がある長野県朝日村保健師の河西ひろ子さんの講演会を開催した。20数名の医療関係者、当事者、家族が集まり、地域のネットワーク形成の大きな足がかりとなった。

4.長野県の精神病院の実態を明らかにするために、長野県情報公開条例にもとづいて630調査の情報開示を求める開示請求を行った。長野県からは開示するとの回答があったものの、開示された病院情報はほとんどは黒塗りで、情報をまとめて当事者・家族に開示しようという目論見は実現できなかった。

5.長野県内にある精神科病床をもつ33病院に院内活動に関するアンケート調査を行ったが、回答があったのは4病院のみであった。アンケートの結果をまとめて冊子を作り、「東京精神病院事情」のような情報提供をしようという構想は実現できなかった。

アンケート調査票の郵送前に説明に伺ったりの「根回し」が足りなかった。

6.当事者、家族、精神医療福祉関係者を対象とした、生活実態調査および医療福祉に関する満足度調査、ニーズ調査を実施しようと、調査票の検討を行ってきた。アンケート調査票はほぼ完成している。調査研究の実施時期については今年度を考えているが未定である。

7.2022年5月15日に、松本市で長野精神医療人権センターの設立総会を実施。元読売新聞記者の佐藤光展さんの講演会と、精神国賠訴訟原告の伊藤時男さんと当会代表の東谷がテレビ出演した番組「日本の精神医療の問題点」を上映した。

横浜から、横浜アクターズスクールのメンバーに参加していただき、精神医療を舞台とした演劇を披露していただいた。

規約と今後の活動方針を会場と検討して決定した。事務局を松本市内に設置した。

8.当事者、家族からの相談に対応してきた。面接と電話相談に対応してきた。

毎月第一日曜日の午後に例会を行い、相談者からの相談に対応してきた。相談者(当事者、家族)に対して7~8人の会員(当事者、家族、医療福祉関係者)が対応するミーテイング形式の相談対応を行ってきた。私たちなりのオープンダイアログ的実践であると考えている。

私たちが今後長野県で目指していること

①退院促進活動と権利擁護 ②相談活動 ③調査研究活動 ④広報宣伝活動 ⑤精神医療国家賠償請求訴訟への協力活動 ⑥アドバイザリーボードの育成強化 ⑦ネットワーク事業 ⑧クラウドファンデイング ⑨各国の先駆的実践との交流

長野精神医療人権センター事務局

〒390-0861松本市蟻ケ崎1873-1

相談電話 090-8818-8268 東谷幸政

月~金曜 午前10時から午後6時(祝日は休みます)

転送により、別の方が出ることがあります。

メール higashitaniyukimasa@gmail.com  面接による相談は予約が必要です。

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精神医療国家賠償請求訴訟の裁判の争点

精神国賠研事務局長 古屋龍太

 

1.精神国賠訴訟の訴え

2020年9月、精神医療国家賠償請求訴訟(以下「精神国賠」と略します)が東京地裁に提訴されました。その後、202131日に第1回口頭弁論が行われて以降、これまでに6回の裁判が行われてきています。本紙「おりふれ通信」では、第397号(20211月号)で、提訴に至った経過と訴状の概要等が報告されています。ここでは、その後の裁判の経過と争点について、裁判所に提出された準備書面をもとに概要を記します。法律用語は難解ですし、限られた紙幅の範囲での要約は正確さを欠きますが、ご容赦ください。

精神国賠は、個々の精神科病院を対象とするものではありません。約40年に及ぶ長期社会的入院を経験した伊藤時男さんが原告となり、国(立法府および厚生労働大臣)を被告として、長年の日本の精神医療政策の違法性・違憲性を争う裁判です。精神衛生法(1950年)以来の、この国の精神医療法制の過ちを、司法の場で明らかにしようとする初めての裁判になります。

原告側の訴状では、「被告国は、精神障害者を危険な存在として隔離収容政策を実施し、日本社会における偏見を作出し、入院の長期化を現実的に抑止せず、長期入院者に対して十分な救済措置を講じることもなく、これを漫然と放置し、地域で自由に生きる権利、社会で人生を選択する権利を奪った」としています。また「厚労大臣は、人権侵害が甚だしい長期入院者を生み出すことのないよう、現状を積極的に解消すべき作為義務を負っていた」にもかかわらず、「実効性のある退院措置を講じないまま、原告に代表されるような、基本的人権侵害行為を、故意ないし過失によって放置した不作為は、国家賠償法1条1項の違法なもの」と国の不作為責任を問うています。

2.被告国側の認否

民事裁判では、原告・被告双方からの準備書面のやり取りが主になります。まず初めに、原告の訴状内容に対して、被告側が「否認」「不知(知らない)」「認める」の三択で、認否の態度表明をします。

例えば、原告側の「長期入院による無欲状態になっている人は、自らの意思に基づいて入院しているわけではなく、消去的選択として入院を余儀なくされている」との主張については、国は「不知」を表明しました。原告の「精神衛生法が社会からの隔離収容を主たる目的として作られたものである」との主張については、国会議員の発言は「認める」ものの、法律の目的については精神衛生法1条に記されたものであるとして「否認」しました。ライシャワー事件や宇都宮病院事件、クラーク勧告やICJ(国際法律家委員会)勧告、法改正等に関する原告の主張については、国は、事件発生や勧告の存在の事実は「認める」が、その評価やそれに付随する訴状記載の事実については、いずれも「不知」ないし「否認」を表明しています。憲法違反や作為義務違反に関する原告の主張についても、国はいずれも「否認」して、全面的に争う姿勢を示しました。

3.原告側の準備書面

原告側弁護団が示した被告国の不法行為は、次の4点にまとめることができます。

(1)医療保護入院制度

医療保護入院は、精神衛生法の同意入院時代から本質的には70年間変わっていません。隔離収容を目的として、精神障害者に限って私人による強制入院を可能とし、法の下の平等にも反します。「医療及び保護の必要性」という要件自体が曖昧で不明確であるため、病院による恣意的な運用を容認し地域差も生じています。憲法上の重要な人権を侵害する制度でありながら、その後も改廃しなかった立法不作為を問うています。

(2)任意入院制度

任意入院は「積極的に拒んでいない状態を含む」本人同意と解釈されています。閉鎖処遇も多く、任意性や入院継続の必要性を審査する制度もありません。「任意入院」という名の強制入院が成立しているといっても過言ではなく、原告もその被害者のひとりです。違憲な法律を改廃しなかった国会の不作為、および任意入院を監督する仕組みを構築しなかった厚生大臣の不作為は、違法なものとしています。

(3)精神科特例

国は1958年以来、精神科特例を放置し、精神科の患者のみが、他科と比較して劣悪な水準の医療しか受けられない状況を継続させました。これを廃止しなかった厚生大臣の不作為は、憲法13条後段及び憲法25条に反し、正当な理由のない差別であり憲法14条に反するとしています。

(4)精神医療政策

精神医療政策に関する厚生大臣の不作為としては、①隔離収容政策の転換義務違反、②精神病院に対する指導監督義務違反、③入院治療の必要のない人に対する救済義務違反が挙げられます。日本の精神医療政策に関する歴史的事実に基づいて、これらの不作為を追及しています。

4.被告国側の反論

原告側の訴えに対して、被告国側は反論の冒頭で、「前提」として「国賠法1条1項の違法は、結果として権利侵害が生じたかどうかではなく、職務上の法的義務に違反した場合に限られる」と法律論で退けようとしています。

立法不作為については「国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」や「国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合など例外的な場面に限られる」として、原告の主張はこれに当たらないとしています。また、行政の不作為についても「情勢に応じた対応が求められるのが行政施策であり、その内容が一義的に定まるものではないものは、職務上の法的義務と解される余地はない」と述べています。

  つまり、原告の訴えは国賠法上の違法には該当しないと、門前払いを裁判所に求めた形です。立法府(国会)と行政府(厚生労働省)の不作為(為すべきことを何もしなかった)責任を原告は訴えていますが、国は応じる「職務上の法的義務」責任も無いと全面否定している訳です。

なお、これらの「前提」は、旧優生保護法訴訟にも関わってきた弁護士によると、「まるでコピペの文章を見せられている感じ」だそうです。国の訴訟専門官が、国賠を退けようとするときの常套手段の「前提」なのでしょう。

なお、各論部分の医療保護入院や精神科特例等については、現在、国の検討会で論点となっていることもあり、非常に歯切れの悪い反論となっています。また、厚労行政としては、時代状況に即した職務を遂行してきており、不作為のまま放置していた訳ではないと主張しています。

5.個人的な感想と今後の方針

国側の反論書を読むと、厚労省としてできることはやってきたという主張は、痛々しい印象さえ受けます。国が行ってきた法改正の内容や社会復帰対策・地域精神保健対策等の項目を列挙していますが、精神科病院に対する介入施策は一切出てきません。国が、これまでの施策の成果をポジティブに示せば示すほど、手を付けてこなかったネガティブな問題があぶり出され、入院精神医療に関わる行政の不作為が明らかになります。

厚労省はこれまでも、強い政治力をもつ精神科病院協会に常に忖度し、入院制度と精神病床削減には手をつけてきませんでした。この国の精神科病院の「不都合な真実」に触れることを回避する「大人の事情」が、精神医療に関わる政策決定プロセスをブラックボックス化させています。既得権益と省益の優先により、日本はなおも精神科病床数シェア世界一の「精神科病院大国」であり続けるのでしょうか。

長期社会的入院は、伊藤さんひとりの体験ではありません。全国どこの病院でもあり得た、日本の精神医療法制度によって生じている権利侵害です。精神国賠研としては、原告弁護団と連携しながら、実際に精神医療ユーザーが体験してきた具体的事実を積み上げて実態を示し、不作為のまま放置してきた国の責任を裁判官に訴えていきたいと考えています。そのために、当事者・家族・専門職等の証言陳述書集めを、今後展開していく方針です。皆さまのご理解とご協力をお願いします。

6.精神国賠周辺の動向

精神国賠の裁判と並行して、この1年半で精神医療法制をめぐる大きな変動が起きています。

日本弁護士連合会は、第63回人権擁護大会(20211130日)で「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を採択しました。「精神障害のある人に対する人権侵害を根絶するために、現行法制度の抜本的な改革を行い、強制入院制度を廃止して、これまでの被害回復を図り尊厳を保障すべく、国に対して法制度の創設及び改正を求める」ことが宣言され、具体的な改革のロードマップが示されました。

厚労省では、202110月より、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」が開催されています。第7回会合(本年316日)では、精神科入院時の身体的拘束やアドボケイト、退院後支援とともに、「医療保護入院の廃止・縮小」が議論されています。障害者権利条約に係る国連の対日審査が622日に迫っている背景もあり、現在急ピッチで作業が進められています。厚労省は「基本的には将来的な廃止も視野に」と記していますが、国連からは「医療保護入院の廃止・縮小に向けた具体策とスケジュールの提示」が求められています。

精神国賠で提起された医療保護入院制度廃止の行方が、今後注目されるところです。

次回裁判期日は下記のとおりです。多くの人がこの国賠の行方に注目していることを裁判官に示すためにも、傍聴行動への参加をよろしくお願いいたします。

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東京精神医療人権センター「再建」総会報告

石原 孝二

 

 

東京精神医療人権センターの総会が327日(日)14時~16時、にしの木クリニック1階会議室(及びズームミーティング)で開催され、規約の改正と運営委員の選出が行われました。総会参加者は24名でした。東京精神医療人権センターでは、この間、電話相談などの活動は続けられていましたが、(資料で確認できる限り)20116月を最後に総会が開催されなかったため、運営委員・役員の選出が行われず、会員管理なども行われない状態が続いていました。今回の総会は、規約改正と会員の確定、運営委員の選出を行うことによって、センターの意思決定機能を回復することを目的としたものです。その意味では、今回の総会は、センターの「再建」総会として位置づけられるものだと思います。

東京精神医療人権センターは大阪(1985年設立)に次いで全国で2番目に設立された精神医療人権センターですが、1973年に結成された「東京都地域精神医療業務研究会」(東京地業研)を基盤とする精神科医療の改革活動の中から生まれてきたものです。1981年には東京地業研のメンバーが中心となり、「診療所運動」の拠点として新宿に柏木診療所が開設され、同時に「精神医療をよくする会」が結成されました。また、精神医療をよくする会の機関誌として「おりふれ通信」が発刊されています。(精神医療をよくする会は1992年に解散し、それ以降「おりふれ通信」はおりふれの会によって発行されています。)1985年には、第二診療所として、立川に「にしの木診療所」が開設されました。1985年の大阪精神医療人権センターの設立などを受け、「精神医療をよくする会」のメンバーと弁護士のグループが中心になり、19863月の東京精神医療人権センターの設立が準備されていきました。

その後1997年度~2007年度には東京都地域福祉財団(のちに東京都高齢者研究・福祉振興財団)からの助成を受け、独立の事務所をもち、専従の事務局員を雇用するなど、活動が大きく展開した時期もありましたが、財団からの助成が終了した2008年度以降は活動を縮小し、すでに述べたように20116月を最後に総会も開催されていません。この10年は、東京精神医療人権センターは停滞期にあったと言えます。ここ数年間は、活動終了も視野に入れた話し合いが行われていたと聞いています。

東京精神医療人権センターの設立以降、日本の精神医療は、人権の擁護という視点から見て、残念ながらより良い方向に向かったとは言えません。過去の東京精神医療人権センターの活動報告やおりふれ通信の昔の記事を読むと、人権侵害の状況の基本的なところは変わっていないのではないか、という無力感と絶望感を覚えます。しかし、これまでの36年間のセンターの活動は、決して無駄ではなかったと思います。個々の相談事例では、相談された方の助けになったことも多かったのではないかと思います。また、精神科医療従事者、支援者、弁護士、当事者など様々な立場の人たちが、そのときどきの制度の下で、どのようにすれば、精神医療における人権擁護を実現できるのかについて、アイデアを出し、議論し、苦闘してきた活動そのものが、大きな財産です。センターの重要な機能には、精神科医療と人権の問題について情報を集め、問題を検討し、具体的な解決策を探るということがあるかと思います。日本全体の精神科医療の制度が大きくかわらないままだとしても、個々の相談事例を通じて、精神科医療と人権の問題を地道に考え続け、試行錯誤と思考の記録を次の世代や新たな担い手へとつないでいく必要があるでしょう。東京精神医療人権センターが解散するべき時は、日本における精神医療と人権の問題が無くなったときでしょう。それまでは、前へと進んでいる実感がもてなくても、この問題を考え続ける場としての、センターを存続させていくことが重要なのではないかと思います。

今回の総会では、組織としてのセンターの再建を目的としました。現在のセンターの活動は、36年前のセンター設立時と比べても、控えめなものとなっていますが、ここからまた、少しずつ活動を拡げ、他の組織との連携も強化していければと思います。

総会で選出された運営委員と規約、第1回運営委員会で選出された役員は以下の通りです。ここから新たなスタートとなります。今後多くの方に、センターの活動にご参加いただければと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

【東京精神医療人権センター運営委員・役員】

運営委員=石原孝二、内山智絵、木村朋子、澤田恭子、内藤隆、中村美鈴、長谷川敬祐、尾藤昌子、星丘匡史、村上ひろみ、山本則昭(10名)

役員:(共同)代表=石原孝二、長谷川敬祐、会計=尾藤昌子、会計監査=内山智絵

 

【東京精神医療人権センター規約】

1条(名称)本会は東京精神医療人権センターと称する。

2条(事務所)本会の事務所は以下におく。  (略)

3条(目的)本会の目的は、以下のとおりとする。

(1)精神医療と人権に係る情報を提供するほか、相談活動、その他の諸活動を行うことにより、精神障害のある人の人権擁護をはかること。

(2)精神医療と人権に関する研究、啓発、研修、提言、出版、などの諸活動を通して精神障害のある人の人権擁護をはかること。

4条(事業)本会は以下の事業を行う。

(1)電話および手紙、面会その他による情報提供、相談活動。

(2)精神医療と人権に関する研究、啓発、研修、提言、出版などの事業。

(3)精神医療機関についての情報収集と公表の活動。

(4)その他本会の目的を達成するに必要な事業。

5条(組織)

(1)(会員)本会は、個人の正会員および団体・個人の賛助会員をもって組織する。

(2)(総会)本会は年一回の総会を開催する。必要に応じて臨時総会を開催できる。

総会では運営委員(若干名)を選出するとともに、運営に関する基本方針を決定する。総会の議決権は、個人の正会員のみが有する。

(3)(運営委員会)運営委員会は、役員を選出する。また運営に関する基本方針に基づき、運営に必要な事項を決定する。

(4)(役員)本会の役員は、運営委員会が互選により選出する。

役員は、(共同)代表(2名以内)、会計(1名)、会計監査(1名)とする。

6条(会費)本会の会費は以下の通りとする。

(1)(正会員)年間3,000円   (賛助会員)賛助団体 年間30,000円  賛助会員個人 年間 3,000円   ※割引制度あり

附則 本規約は1986315日より執行する。

附則2(全面改正) 本規約は2022327日より執行する。

【参照文献】

「おりふれ通信」No.11981年)、No.381985年)、No. 491986年)、No. 1131992年)

「東京精神医療人権センター活動報告」第1号(1986年)~第25号(2011年)

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