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障害者ダービー 知的VS精神

馬野 ミキ 

三十代後半、

アルコール中毒の診断を受け、区内の依存症の施設に通っていたことがあった

建物の上から下までアルコール、薬物、ギャンブルその他の依存症の患者がひしめき合い

それぞれの階にてゾンビのようにミーティングやカリキュラムをこなしていた

アルコール中毒者は、アメリカから輸入されたAA(アルコホーリクス・アノマニス)という自助的な手法を取り入れていて、それぞれがアルコールによる失敗談を語り、それを他の参加者たちは批判せずに聞くというものがあって

自分は割とその時間が好きだった

俺たちは毎朝、列を作りそれに並んでシアノマイドを飲んだ

このシアノマイドという薬を飲んでアルコールを入れると、立ってはいられないくらいのダメージが肝臓にくる

自分も何度かチャレンジし、のたうちまわったことがある

 

生まれてきた罰だ

 

この巨大な依存症の施設にはスポーツリクリエーションがあり一通り見学したあと

サッカークラブに入部した

高校を辞めるまで中学から四年間サッカーをしていた

総勢10人弱のメンバーで半分くらいが経験者で

週に何度か室内でストレッチをしたり、日によっては近所の公園に出かけた

ある日、関連する知的障害者施設の練習相手として俺たちは選ばれ

知的障害者と精神障害者による障害者ダービーの日取りが決まった

このフレンドリーマッチの目的はあくまで知的障害者チームの大会に備えたシュミレーションであり

コーチは全力を出さずに戦うように俺たちに指示した

俺たちは「はい!」と返答して

全力を出した

我々、依存症精神障害チームは、華麗なパス回しで知的障害者チームを翻弄し

ゴールを量産した

最初は身振り手振りで本気を出すなと怒っていたコーチもやがてあきらめて静かになった

躁的な状態になっている二人のストライカーに俺はスルーパスを送る

ほとんどのパスは通り

彼らは次々とゴールネットを揺らして帰ってくる

誰も自分たちをコントロールできなかった

 

10分ハーフのミニコートでのこの試合は26-0で幕を閉じ

15得点をたたき出した若者は鼻血を出してグラウンドの真ん中で倒れていた

依存症チームは額の汗をぬぐいシャバの水道水に代わりばんこに口をつけた

知的障害チームの数人はすっかり自信を失ってしょげて

うつむていた

 

俺は悪いことをしたのだろうか

でもだとすれば俺はどこにボールを蹴るべきだったか

 

知的障害チームと依存症チームのコーチは互いに笑いながらしばらく談笑していた

十年後、東京で開催される予定であったオリンピックは中止になった。  

 

 

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