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退院請求制度(法38条4)は役に立っているか?

東京精神医療人権センター  弁護士 内藤 隆

1 はじめに
  宇都宮病院事件(1984年発覚)を契機に1987年、精神衛生法が精神保健法へと大改正された。その要点の1つは、入院者の退院請求権の保障とこれを判断する精神医療審査会の創設である。この権利の目的は、「入院患者の人権保護を強化するため」である(厚労省の解説書)。私はこの制度を代理人として経験し、今日の硬直した運用を知った(但し、東京の事案)。

2 事案の概要
(1)2015年4月の人権センターへの電話相談が端緒である。60代の女性(本人)で、A病院に入院しているが退院したいという相談。
(2)本人は2008年頃、家族の同意によってA病院に医療保護入院した。開放病棟で生活していたが、2012年頃に、外出して帰院時間を守らなかったとして閉鎖病棟に移され現在に至った。
(3)主治医は、本人は「躁の強い統合失調症」と述べ、退院希望を認めない。私が面談した時は、「人権センターの介入は迷惑」と述べた。
(4)2015年6月30日に退院請求等を本人の代理人として申し立て。
(5)同年7月31日、A病院で精神医療審査会の2名(?)の委員(医師、弁護士)が本人と面接(実地審査)、私は不都合で欠席(私に日程調整の連絡なし)。
(6)同年8月18日、精神医療審査会の部会が開催。場所は中部センター内。私が出席して意見陳述、本人は欠席。A病院も欠席。
(7)同年9月9日、審査結果の以下の通知。
 (退院請求の結果) 他の入院形態(任意入院)への移行が適当と認められる。
 (処遇改善の結果) 処遇は適当でない。
(8)同日、A病院から退院の指示(退院の強制)。B病院に転院。現在(11月30日)に至る。

3 退院請求制度の実情と問題点(東京)
(1)退院請求
 ア もともと法的対応能力が充分とは思えない入院者からの請求なので、請求方法はできるだけ易しくしなければならない。「請求は書面をもって行うことを原則とするが、口頭(電話を含む)による請求も認められる」(解説書)。しかし、都の説明文書には口頭の申立も可能なことの説明はなく、逆に書面申立を前提に「請求を行う理由が不明確であると不受理になります」という威迫的な説明がある。そして退院請求の書式が送られてきて、その中に「請求を行う理由(必ず書くこと。詳しく書くこと)」、「入院に至る経緯及び入院してからの経過(詳しく書くこと)」、「退院後どうするのか具体的に詳しく書くこと」などが注記されている。これでは最初から退院請求の意欲が萎える。審査会委員との面談の機会(実地審査)があるのだから、詳しくその場で聴取すればよいことである。申立を少なくするために入口のハードルを高くしているとしか思えない。
 イ 代理人による請求も認められる。今回私が代理人として請求した。ところが応対した審査会事務局員は、「弁護士であることを証明しろ!」というとんでもない対応をする。ここで喧嘩。あげくのはてに私の事務所名を誤って(別の事務所名)記載して、又喧嘩。これは「間違いのないよう職員一同、周知徹底します」と文書で詫びが入って終息(「第1回謝罪」)。案件が少ないせいか、事務局が制度運用に慣れていない。
  又、代理人請求なのに重ねて本人に対して前記と同じ、詳細な書面の提出を求めてくる。その理由と必要性がわからない。代理人の主張を信用しないのだろうか。
(2)実地審査と審査会
  ア 本人は実地審査で審査委員と面談できる。代理人は実地審査での立会、審査会(部会)での意見陳述で審査委員と面談できる。しかしこの運営も硬直している。
  イ 第1に、私は上記のいずれにも出席を希望したが、期日が一方的に指定されたために実地審査に立会することができなかった。聞くところによると、審査会(部会)が活動する期日は年間で決められており、これを動かすことはできない(請求者の都合は考慮されない)とのことである。これはおかしな制度である。退院請求は入院者のためのもので、審査会の利益のための制度ではない。
  ウ 第2に審査会の構成の公開の問題である。私はどこの誰かわからない人(委員)の前で意見を述べることは不自然なので、担当する3部会の委員の氏名と職業と勤務先の開示を事務局に求めた。最初は「わかりました。後でお知らせします」とのことだったが、その後「上司に計ったところ開示できないことになった。申し訳ない」(「第2回謝罪」)となった。
そこで私は、情報公開請求の手続をとった。結果は「審査の結果が本人の意見と一致するとは限らないことが想定される」という訳のわからない理由で非開示決定。私は審査会当日、「審査委員」とだけ書いた名札を前にした人の前で、誰が医者か、法律家か、学識者かわからないまま意見を述べた。なおこの情報公開において、決定文に条例の適用の誤りがあったので指摘したところ、「今後は二度とこのような誤りがないよう、細心の注意をはらう所存でございます。何卒御容赦のほどお願い申し上げます」との詫び状が来た(「第3回謝罪」)。「条例に基づき30円の開示手数料を現金書留(下線は原文)によりお支払い下さい」というふざけた文書も来たのでほったらかしにしている。

4 まとめ
  今回の経験で、現在の退院請求を入院者本人が利用するためには困難が多いとわかった。制度本来の趣旨では、もっと簡単に退院を請求できるはずだった。刑事事件では国選弁護制度で被告人らの権利を補充し、保障している。行政の後見的介入がなければ、退院請求は形骸化するだろう。これと軌を一にして審査会の官僚制、密室性にもあきれる。自己紹介もしないで他人の意見を聞くのは失礼だろう。裁判では廊下に裁判官の名前が掲示してある。
  総じて、1987年の法改正の理念が失われつつあるのがとても心配である。             以 上

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