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薬とお金と合鍵で・・・ ~ある精神科クリニックの強制「通」院~

あおば作業所勤務 北島沙希

Aさんは約5年前、就職先を探している最中に、あるクリニックのデイナイトケアの利用を開始した。長年勤めた飲食業を退職したあとは、短期の仕事をしながら、仕事がないときには生活保護を受けながら生活していた。
あるときの勤め先の仕事内容は体力的にきつく、なんとか任期満了で退職してからは、次の仕事は慎重に決めようと考えていた。福祉事務所のケースワーカーには、「仕事をするなりしなければ保護費を打ち切る」と言われ、脅しのように感じていた。
その後、ケースワーカーに就職しないのであればクリニックに通ったらどうかと持ちかけられた。決めかねていると、階段の踊り場へ連れていかれ、突然胸ぐらをつかまれて「どういうつもりだ」と迫られた。恐怖のあまり何も考えられなくなった。しかたなく通うことを了承すると、「明日ここに来るように」と紙切れにかかれた住所を渡された。


“リワーク”のために・・・?
向かった場所は、家から電車で片道1時間以上かかるクリニックだった。翌日から週6日、朝から夜までデイナイトケアに来るように言われた。なぜこんな遠いクリニックを紹介されたのか疑問でしかたなかったが、“リワーク”のデイナイトケアであるため就労につながると思い、「6か月通って就職しよう」と通いはじめた。
通いはじめるとスポーツ、音楽鑑賞、クイズなどのプログラムに参加した。休憩時間は2時間と長く、ぼーっとするだけで時間をもてあました。特に就労に役立つと思えなかったので休んだところ、翌日家に看護師が二人来て、脇を挟まれるようにして強制的にクリニックへ連れていかれた。クリニックに着くと何をするわけでもなく、ほったらかしにされて、何のために連れてこられたのか全くわからなかった。
またある夜8時頃、コンビニに行こうと家を出ると、夜道で肩を叩かれた。振り向くとなぜかクリニックの看護師が二人立っていて、「明日は来てくださいね」と声をかけられた。一日でも休めば家まで看護師が来るのが怖く、休まずにクリニックへ通うようになった。

許されない、デイケアからの「卒業」
通いはじめてからやっと6か月がたち、主治医に「卒業したい」と伝えたところ、明確な理由なく「まだ」と言われた。延長された期間を過ぎたので、また「卒業したい」と伝えたところ、「まだ」と言われた。卒業したいというたびに期間は延長されつづけた。
約2年たったころ「卒業したい」と伝えると、「まだ薬を出していなかった」という理由でそれまではなかった向精神薬の投与が始まった。薬を飲みはじめると身体がこわばってきたため、それを主治医に伝えると「副作用じゃないと思うけど、副作用止め出しとくよ」と薬が増えた。
1年前、週二日作業所に通うことになったことを主治医に報告したが、「作業所終わったあとにデイケア来いよ」と言われたのを最後に主治医には会えていない。

『連れ出し』の恐怖
クリニックでは、デイナイトケアに出席していない人に対し、Aさんも経験した『連れ出し』が日常的に行われていた。朝8時頃と夕方6時頃に欠席者がいると、看護師たちが「『連れ出し』いってきます」と言いながら出掛けていった。
さらに2年前には、Aさんは自宅の合鍵を作らされた。合鍵はクリニックの職員が管理しているため、連れ出しの際には「Aさん、空けますよ」と家の中まで入られるようになった。不在時には勝手に家の中に入られて、玄関の棚の上に薬が置かれていた。トイレに入っていると突然窓が開けられ「来ましたよ」と声をかけられた。いつ勝手に家の中に入られるか怖くてたまらなかったので、毎日通院をつづけた。早いときには朝7時に連れ出しが行われ、一時期は恐怖のあまり眠れなくなった。

生活保護費がすべてクリニックに
 3年前ごろ、生活保護費が支給される前日に交通費がなかったのでクリニックを休んだ。事情を知った看護師から「金銭管理ができないのであれば生活費を管理する」と言われた。看護師が福祉事務所へ話し合いをもちかけ、それから生活保護の全額が福祉事務所からクリニックへ現金書留で送られるようになった。約30人のメンバーのうちAさん含めて10人ほどが、同じようにクリニックに生活費を管理されていた。一日いくらと定められた生活費を通院の際にもらうことになっているため、通院しなければ生活費がない。それに加え、預金通帳もクリニックのほうで預かるということになり、自分の生活費が人質にとられているような状態だった。通帳を渡したとき、目の前で看護師たちが自分の通帳を眺めながら「ふ~ん」と笑っていた、それがとても辛かった。

福祉事務所は・・・
Aさんはデイナイトケアを卒業したいと福祉事務所のケースワーカーへも相談していた。この5年間で担当は5回変わったが、そのたびに「今のところはここのクリニックに通うしかないよ」と同じような言葉が返ってきた。どの担当にも訴えを聞いてもらえることはなかった。

強制通院からの「退」院
片道1時間の通院時間をかけ、朝から夜までのデイナイトケアを週6日間、5年以上通い続け、もうすぐ60歳にもなるAさんには負担が大きく辛い。
通院先の選択は基本的に本人の希望によるものであることから、転院へ向けて区内で通いやすいところを探し、新しい受診先と初診の日を決めた。その旨を福祉事務所に伝えると、担当からは「本人がクリニックの主治医と話してもらわないと転院の手続きはできない」の一点張りであった。
クリニックへ電話をし、転院をしたい旨を申し入れたが、「福祉事務所と決めた通院なので福祉事務所の了解が必要だ」「継続が望ましい」ということを主張するのみで、本人の希望を聞き入れようとする姿勢はなかった。また、合鍵や現金、預金通帳を返却してほしいと伝えても、「福祉事務所と決めたこと」と応じなかった。
その後、Aさんと作業所のスタッフ2名と区議会議員にも同行をお願いし、福祉事務所を訪ねた。福祉事務所では担当職員含め3名と2時間余りの話し合いを行い、転院の手続きが出来ること、合鍵と現金、通帳の返却が福祉事務所を通して行われることをどうにか確認することができた。
後日、合鍵と現金、通帳がAさんの手元へ返ってきたが、現金に関しては、封筒に現金が入っただけのものが返ってきた。この5年間、Aさんのお金がどう動いてきたのか、クリニックがどのように金銭管理をしてきたのか全くわからないような状態であった。
クリニックへ「5年間の収支がわかるものを送ってほしい」と問い合わせたが、「院内の資料なので見せられない」と内容を開示できないという返答があった。お金を送っていた福祉事務所に問い合わせてもらえるようお願いしても、「開示させる権限はない」と返答があった。請求を重ねているが、現在も返ってきていない。

自分の生活を取り戻す
Aさんはこの5年を振り返って、「クリニックというところは、心を癒したりするためにあるところだと思っていたが、全く違っていた。薬とお金と合鍵でしばりつけられて、恐怖心だけで通わされていた」「心が空虚になり、心身ともに弱っていくような場所だった」と語っていた。Aさんと同じ思いをしている人が、まだクリニックのなかに沢山いるというのが心苦しい。
現在、Aさんは新しい主治医のもとへ月一回通院しており、作業所には2週間に一回のペースで通っている。新しい主治医との診察は本人いわく「別世界」だそうで、ちゃんと自分の話を聞いてくれるので安心して話ができるらしい。現在は向精神薬を処方されていない。そして金銭管理はAさん自身で問題なく行っている。しかし、合鍵はないとわかっていても、家にいるといまだに少し恐怖感があるそうだ。Aさんはいま医療への信頼と、自分の生活を取り戻している途中だ。

編集部より
精神疾患の疑いのある生活保護利用者に対し、東京都内の医療グループが自治体からの委託で福祉事務所に「相談員」として職員を派遣し、グループの精神科クリニックで通院治療やデイケアなどの「自立支援医療」を受けるよう誘導した疑いがあると、フジテレビにて報道されました。この問題に関する情報提供、ご連絡は下記にお願いします。
<医療扶助・人権ネットワーク事務局>
東京都新宿区四谷3丁目2番2号TRビル7階マザーシップ法律事務所内
電話 03−5367−5142(担当 弁護士 内田 明)


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