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道交法「改正」後の運用上の諸問題 ー 運転適性相談窓口、質問票、診断書について ー

みのクリニック 三野 進
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はじめに たにぐちさんへ
たにぐち万結さん、11月号の「精神病で運転免許を返上しなくちゃいけないの?」を拝見しました。十分な説明もなくたにぐちさんが免許停止に至ったことに憤りを覚えますし、改定後の運用の折衝に関わった精神科医としても責任を感じます。お怒りはもっともです。
たにぐちさんには、実際の免許更新時の実体験を警察、主治医とのやりとりなど順を追って正確に記載していただきました。二度とこのようなことが起こらないよう、貴重な前例として問題を整理して対処の仕方を考えてみます。
たにぐちさんは今まで運転免許を保持されており、病気を原因とした事故もなく運転適性があると判断されているのであれば、たとえ昨年入院治療を受けていたとしても免許の制限をされる所以はありません。なのに、どうしてこのような目にあわれたのでしょうか。
免許停止に至った原因を3つ挙げてみます。第1に、道交法の運転免許欠格規定の欠陥と、その矛盾をさらに顕在化させている道交法改正後の運用上の問題があります。第2に運転適性相談窓口(以下、相談窓口と略します)が本来の機能を果たしていない問題、第3に主治医の判断と診断書の記載内容の問題が挙げられます。道交法の欠格規定に根本的な誤りがあり、その上に幾つかの事情(工夫によっては回避できたかもしれません)が重なって、残念な結果になったのだと思います。
一番目の問題は、精神疾患については病名をあげて欠格とする医学的根拠はないのに、危険運転にいたる症状も明記せず、運転適性の判断を自己申告と主治医に委ねている現行道交法に責任があり、欠格事由を撤廃ないし改正しなければ解決できない問題です。二番目の窓口の問題は以前からありましたが、今回の罰則規定新設によって相談者が増えたこと、都道府県によって間違った広報と運営をしていることから、更に深刻な事態を呈しています。
3番目の精神科医と診断書に関する問題は、精神神経学会と警察庁の合意がなり、診断書記載様式が大きく変更されたことで一定の改善が図られたと考えている部分です。たにぐちさんが更新申請をされた6月半ばには間に合いませんでした。質問票への虚偽記載への罰則などを定めた道交法改正部分が施行されたのが6月1日、それに伴う混乱を避けるための折衝(主治医判断の基準、診断書書式改訂)が終わり合意に至ったのは6月中旬、各都道府県公安委員会に新診断書、学会ガイドラインも含む新たな運用基準が配布されたのは8月、運用が新制度に移行したのは9月1日からです。つまり、6月から8月末までは統合失調症や躁うつ病にある人の免許保持に大きな脅威を与える法改定があったのに、運転適性があると証明できる主治医診断書という防具なしで当事者の方々は立ち向かわなければならなかったのです。日本医師会はじめ関係団体とも協議しなければならず時間がかかったという事情もあったのですが、新しい運用基準の施行が遅れたことでたにぐちさんのように理不尽な目に遭った方が多く出たことについて、お詫びいたします。

道交法の欠格事由の問題と質問票
たにぐちさんが今回の免許更新で適性相談窓口に向かわれたのは、案内ハガキに
「下記の病気にある方は、症状によっては、免許が取り消される場合があります。不安がある方のために相談窓口を設けております」と書かれていたからです。免許センターや交番などいたる所に、病名を明記してこれらの方は事前に相談してくださいと勧めるポスターが張られています。また、免許センターに行けば、「病気の症状の申告欄は正確に記載して下さい。虚偽の申告については罰則があります」と赤字で書かれた説明が掲示されています。
運転に問題がない人でも病気に該当すると思われた方は誰もが不安に思い、相談窓口に行けば免許更新が可能か、判定してくれると思うのは自然の流れです。しかし、相談窓口に出向いてどのような症状が免許欠格となるか相談しても、少なくとも精神疾患に関しては判断してくれません。詳しく病歴や受診歴を尋ねられそれを事細かく記録し、最後は診断書を主治医に書いてもらうよう渡されるだけです。これは、窓口の係官が怠慢であるからではありません。道交法では幻覚のある統合失調症と躁うつ病は、原則全て免許欠格とし「自動車の安全な運転に必要な能力を欠くこととなるおそれのある症状のないもの」だけ免許を与えるとしています。「おそれある症状」については何も規定しません。なので係官に病気に関する知識があったとしても、法的には窓口で判断することができないのです。政令と運用基準で、この判断は主治医か専門医(警察嘱託医)が行うよう規定されているので、窓口で通院していると申告されたら診断書を主治医に書いて貰うよう言うほかないのです。これは、道交法の欠格規定の本質的な欠陥であり、法改正以外に対策はありません。
では、実際の免許更新(新しく免許を申請する場合も同じです)時には、どのような行動をとればよいのでしょうか。運転免許センターに行くと、免許更新申請書と質問票の必要事項を記入しなければなりません。この質問票の質問に対して「はい」か「いいえ」に✓をつけることが「病気の症状の申告」となります。5つの質問のうち、精神疾患の症状に相当するのは「5.病気を理由として医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている」の項目です。免許更新の際の病気の病状申告はたったこれだけで、病名を問われることはありませんし、これ以外の症状を申告する必要はありません。
「医師の助言」は、更新時点で有効な助言だけで考慮すればよく、過去の助言で撤回されたものは考慮する必要はありません。現時点での「医師からの病気を理由とした運転禁止の助言」があるか否かで回答すればよいのです。また処方薬の眠気等に関する通常の注意は、運転禁止の助言から排除してもよいとの回答を警察庁から得ています。処方薬に関する運転禁止助言を有効とすれば、高血圧や不整脈、アレルギー、感冒などの治療薬も運転禁止とされていることから、一般の薬物治療を受けている人の半数近くがこの質問にハイと✓しなければならなくなるからです。
言うまでもないことですが、「病気であること」を申告しなかったら罰則の対象となるわけではありません。質問5への「虚偽の回答」として罰則対象となるのは、医師からの運転禁止を忠告されていたのに「いいえ」と答えた場合のみです。「病気の症状を申告しなければ罰則の対象となる」という脅しに近いフレーズは、該当する人たちにとって大きな脅威となっており、正確な表現に改めるべきです。
統合失調症、躁うつ病(うつ病を含む)にある人については、そう遠くない過去から現在までに、主治医から「病気の症状があるので運転してはいけません」と言われていなければ、質問5の「いいえ」に✓をいれて、免許更新を滞りなく終わらせるべきです。通院されていない方はどうなるのかという疑問は残りますが、少なくとも定期的に通院されている方にとっては、この質問に答えることは容易であろうと思います。今までの長い治療経過の中で、主治医から受けた助言を思い起こせばよいのです。精神症状があっても安定した社会生活を送っていて、今までも症状が原因で事故を起こしたことがない、病状が悪化したときには運転を自制できるという方は、質問5については「いいえ」としてよいはずです。
これだけでは不安なので警察のお墨付きが欲しいと考えて相談窓口に行かれても、警察は独自の判断をせず主治医の診断書を求められるだけなので、窓口に行く労力と診断書料をとられるだけの骨折り損に終わります。相談窓口に行くことなく、主治医と相談することを強くお勧めします。

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