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精神疾患にある人の自動車運転に係わる法改定—どう対処すべきか(短縮版)

                                                    みのクリニック  三 野 進

はじめに
 てんかんのある運転手が起こした重大人身事故が続いたことがきっかけとなり、昨年道路交通法改正と自動車運転死傷行為処罰法新設がありました。残念ながら事態は、統合失調症、気分障害やてんかんなど特定の疾患にある人に一方的な責任を負わせ、厳罰化を推し進める方向に向かいました。
 日本精神神経学会(以下、学会とします)は、以前より精神疾患にある人を運転免許欠格事由に挙げていることに強く反対し、精神医学的根拠はないので廃止すべきであると主張してきました。制限するとすれば「原因に関わらず急性精神病状態にあり、認知・判断・行動の能力が明らかに低下し、運転に支障を来たす状態」という状態規定に留めるべきである。そうすることで真に危険な状態を拾い上げ事故防止に役立つことができるとの原則を繰り返し表明しましたが、受け容れられることはありませんでした。
 今回、特定疾患にある人の免許取得に制約を加えるだけでなく、ひとたび死傷事故を起こせば過失であっても通常人より重い刑罰を科すことを認める差別法(自動車運転死傷行為処罰法)が成立したことを学会は重く受け止め、反対の立場を一歩進めて「精神疾患では急性の精神病状態にある時に安全運転に支障を及ぼすことはあるが、病的状態にあっても多くの場合危険運転にいたらない」ことを明確に示すことにしました。危険運転となる例外的な状態を明示し、精神疾患にある人たちの大部分は運転適性があることを精神科医が説明することで、当事者が自動車運転の権利を不当に奪われたり、理不尽な刑罰を科せられる事態を避けられると考えたからです。
 2法が国会で成立した昨年末から政令や法の運用に私たちの見解が反映されるよう警察庁、法務省と折衝を重ね、本年6月に診断書の記載方法、政令の解釈、規制への考え方などをまとめた「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」を公開しました。
 精神科医のためと銘打っていますが、患者さんの運転に携わる権利とリスクの問題を示し、精神科医がどう対処すべきか、その原則を述べたものです。患者さんと家族、また医療・保健・福祉専門職の方々にも活用していただき、今後も改訂を重ね患者さんの生活に資するガイドラインにしたいと願っています。
 ガイドラインに含まれる診断書記載ガイドラインは、学会が警察庁に提案し合意したものなので、警察庁ホームページに掲載され、各都道府県公安委員会にも配布されています。公安委員会は、診断書の記載内容と判断基準によって免許交付の可否を決めます。免許交付を制限された場合には、この基準をもとにその理由を問うことができます。
 今回機会をいただいたので、学会ガイドラインの道交法関連の部分を解説したいと思います。なお、私は香川県高松市の一開業医です。今回の問題では精神神経学会法委員会を担当する理事を務めています。本ガイドラインの内容に責任を負う立場にありますが、この小文で述べた内容は一個人としての発言であることをご承知下さい。

(1)質問票への回答義務
 今回の道交法改定では、一定の症状を呈する病気による重大事故への対策という触れ込みで、「病気の症状についての質問票への虚偽記載への罰則」と「医師の届出制」が新たにもうけられました。
 従来から、免許更新申請書の裏面に病気の症状申告欄がありましたが、自筆署名する義務はなく、形式だけが存在していたと言えます。今回の道交法改定で、この方式では該当者を的確に把握できないとして「運転に支障を及ぼす症状について故意に虚偽の申告をした者に対して罰則を設ける」ことになりました。罰則規定があることから当事者の心理的負担は確実に重くなっています。病気にある人たちは申告すべきなのか深く悩み、運転免許の更新を断念する人もでるでしょう。
 精神疾患に限れば、実はこの新しい質問票制度は従来と変わっていません。精神疾患に係わる質問は「病気を理由として、医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている」という項目だけで、従来と全く同じです。症状に関する質問票なので、病気や症状に関する記載があってしかるべきでしょうが、本来そのような特別な症状はなく、法でも規定されていないのですから書きようがないのです。免許申請や更新の際には、患者さんは免許更新の直前に主治医と相談し、この質問について「はい」「いいえ」のどちらを回答するか相談しておけば、免許更新時に免許センターに行っても戸惑うことはないでしょうし、虚偽記載に問われることはありません。
 学会ガイドラインの【付記】Q&A1〜4で、患者さんが不安を抱かれることについて説明しています。全国各地の運転免許センターでは、「病気の症状に関する質問票の提出義務があり、虚偽記載したときには罰則がある」「一定の病気とは○○病です」と記載された掲示がありますが、これらの表現は言葉足らずで正確ではないことを確認しましょう。
 「病気等で不安のある方は運転適性相談窓口にご相談下さい」という誘導に対する対処も必要です。この窓口で病名を告げ、免許の可否を問うても回答は得られません。手続きの手順は説明してくれるでしょうが、病歴を聴取され主治医診断書を渡されることが大半であろうと思います。欠格病名に該当すれば、制度上、免許可否の決定は主治医か専門医の判断に委ねるので、そうするしかないのです。現状では、相談窓口に行くより学会ガイドラインを読むことで得られる知識の方が格別に多いのではないでしょうか。分からないことは主治医に質問すべきです。

(2)あらためられた公安委員会提出用の診断書
 相談窓口に限らず、質問票への記載内容によって、主治医の診断書を求められることがあります。従来の診断書は、診断時の症状安定だけでなく将来予測を記載することを要求されていました。現時点での運転能力の記載はまだしも、精神疾患が将来にわたって再発することはないとは誰であっても保証することなどできず、精神科医にとっては記載がはばかれる最悪の診断書でした。
 今回改定で診断書を要求される患者さんが増え、刑法罰との関係からも運転適性があることを積極的に証明する必要があることから、精神科医が医学的な判断により記載できる様式を提案しました。精神科医が書きやすいと思われる例示を整理し、公安委員会側の可否の基準と合致するよう合意したものが、学会ガイドラインの最後にある別添3「診断書記載ガイドライン」です。
 精神科医が警察庁の運用基準とこの記載ガイドラインを突き合わせて読めば、免許更新に制約を加えないためにどのような記載が必要であるかわかる筈です。警察庁はあくまで現時点での運転能力と将来再発するおそれの有無を求めていますが、私たちは病気の一般的な再発リスクと区別されて、それ以上の再発リスクがあるという表現で急性の精神病状態が運転能力低下をきたすことを示すことにしました。そして①特別な再発リスクがない、②あっても運転能力に影響はない、③安全運転能力を欠くことがあるが自制できる、の3条件をあげ、その場合には免許を保持できるとしています。「4その他特記すべき事項」に書かれた内容を、主治医に説明して貰えば、当事者にも内容は理解できる筈です。
 この「4」に記載が何もなければ、免許は更新されますが多くの場合6ヶ月後の診断書再提出となります。このことについては、主治医に念を押す必要があります。

(3)医師による任意の届出
 さらに今回の改正では、欠格に相当する病気の症状に該当する人を診断した医師は、その判断により任意に公安委員会に届け出ることができるという規定が設けられました。なんの条件もなく、医師が危険であると判断すれば、公安委員会に通報・届出できるとすれば、医師-患者関係に不信の要素を持ち込み、治療の不安定化をもたらします。また精神科医療機関への受診拒否の問題が深刻化することになります。
 近々日本医師会より「一定の症状を呈する病気にあるものを診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン」が公開されます。このガイドラインでは、届出にいたる慎重な手順が示され、精神疾患については、当学会ガイドラインを参照することとしています。学会ガイドラインでは、患者さんの運転能力が低下した状態にある4つの場合を考え、それを全て満たす場合においてのみ届出を考慮すべきであるとしています。
 現実には、この4点全てを満たす場合とは患者さんにとっても危険な状態であるので、殆どの場合入院などの医療措置に至ると思われ、医師が届出だけをするというのは考えにくいと思われます。
おわりに
 精神科医の実感としては、治療をきちんと受けている人が病気の症状を原因として交通事故を起こすことはまれで、事故を起こすリスクが高いのは安定した治療関係を持たない人であろうと思われます。治療関係を持たず医師からの助言を受ける機会もない患者には病気に対する認識もないので申告制度自体が無効で、罰則の有効性には疑問があります。
 繰り返しますが、精神疾患と交通事故との因果関係についての科学的な評価は存在しません。不幸な交通事故を防止する観点から、運転能力に欠ける人の免許を制限することには異論がありませんが、病気に罹患していることのみを理由として運転適性を有する人から免許を剥奪することは断じて許されることではありません。
 次回は、自動車運転死傷行為処罰法についてお話しいたします。

(参考文献・資料)
公益社団法人日本精神神経学会
「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」 
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/guideline.html


 【編集部から】

 より多くの仲間に読んで欲しいという当事者の方からの要望が複数あったので、著者の了解を得て短縮版を公開することとしました。ご意見、ご感想、ご質問や、おりふれ通信のご購読申込みもお待ちしています。

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コメント

双極性障害2型で子供2人大学上げ正社員で働いてます 前更新は健常者同等で更新 主治医変更して2年 はなから更新不可 問診で判断出来ない いわゆる Drの自己防衛上の拒絶反応 客観性がありません 困ります

投稿: 坂本 | 2016.07.16 05:27 午後

こんにちは 三 野先生
このページを見まして、
少し違う状況になっていますのでお伝えしたいと思います。

実施される内容は、都道府県により相当変わっているかもしれません。

私の方の状況は、知り合いの方が、小さい頃は少し変わった子であるというぐらいでした。
若い時、いじめにあって、自殺未遂をきっかけに、精神治療が始まってしまい。
多剤投与を受けて、心の発達がとまってしまったようですが、離婚をきっかけに、薬剤を減らして無くすことで、
普通の精神状態に戻れ、
特に問題がある状況ではないです。
夫、相手方の借金を持たされて自己破産までしていますが、別れられてよかったといいます。

さて、実際の始まりは原付きバイクで交通違反の点数が6点になって、講習(必須ではない)を経済事情で受けなかった。
警察から免許証を提出させに来て、強制ではないにしろ取り上げられてしまった。
試験場の方に出向くように言われた。(適性検査を受けさせるためと思われる)
行かなかったので免許更新の機会を失ってしまった。(再発行の期間も過ぎた)

私が知ったのはこの段階ですが、免許証がない場合、適正検査と言うか公安委員会の対象から少し外れる。
しかし運転免許試験を受けて合格しても、診断書が合格していないと、合格そのものが取り消され、もらえる機会はないわけです。

私が事情を説明して、適正相談を受け診断書をもらって、書いていただく上での注意点も聞いてきました。

さて、これを書いていただけるところを探すと、断られてしまいます。
理由は6ヶ月診察していないと主治医ではない。(もう5年以上前で薬もあり記憶が薄れてる)
あるいは公的認定の精神指定医でない。

この2点が判って、それを探しますと大都会でも3つの病院にしか居られない、
また1つは経験がないので実際にはやっていない。

もう一つは私が知っている病院ではあるけれど、内情がわかっているので的確ではないと判断しました。

残りの病院に問い合わせますと、精神鑑定など検査をしないと等と言われ、実際には相当長い期間がかかってしまいます。

もとはアキバの事件で急遽作られ、体制を上げて対象者を探すシステムでありながら、認定医の補強がつい最近軌道に乗って将来増やせられるという段階でして、
まだ認定医が増えていないため、受診が難しい。
精神治療を必要としない状況の者は更に受けるのが困難な状況でありながらも、
合格診断書が必要なのです。
このようにあまりにもひどすぎる、状況が続いております。

ttp://www.pref.tottori.lg.jp/119419.htm
対象者の発見、報告
ttp://www.police.pref.osaka.jp/keitai/kotsu/menkyo/09_1.html
運転免許試験に合格しても、一定の病気等にかかっており、自動車等の安全な運転に支障を来すおそれがある場合には、免許を取得できない場合があります。(実際には発行されません)

とご報告まで

投稿: ね困る | 2017.12.25 03:56 午後

追加資料
ttps://www.police.pref.osaka.jp/01sogo/jyho_kojin/kohyo/02/siryo/shinsa/29shinsa1/shinsa/html/022_1.html

その他の場合には拒否又は取消しとする

投稿: ね困る | 2017.12.25 04:14 午後

私は一昨日、優良ドライバーの免許を持って、更新をしました。すると或る警官に精神病を持っていることを伝え、教習の後、質問されました。質問票の最後の5番目に医師の控えもなく運転していた欄にいいえの欄レ点を入れました。控えというのはやったはいけないという意味なのでしょうか、或いは運転しても良いが自制しろというのでしょうか。その後診断書が書かれ、それ次第によっては一年以下の懲役、或いは3万円以下の罰金になるのかが心配です。「控え」というのは道路交通法どういう意味なのでしょうか?

投稿: ハインリッヒ | 2018.12.22 02:31 午後

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