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精神疾患にある人の自動車運転に係わる法改定 —どう対処すべきか(その2)

みのクリニック 三野 進


自動車運転死傷行為処罰法とは
 前号に引き続き、精神疾患にある人たちの生活に大きな影響を与える法改定について考えます。今回は、自動車運転死傷行為処罰法の新しい罰則がテーマです。
 自動車を運転していて死傷事故を起こした時には、どのような罪が適用されるのでしょうか。自動車運転による死傷事故は、基本的には過失によるものです。自動車運転は危険を伴う行為なので重い注意義務があり、過失の程度によって刑を科す自動車運転過失致死傷罪が定められています。
 もう一つの刑法罰である危険運転致死傷罪は、危険運転であることを認識し、にもかかわらず運転を続け、その結果として人を死傷してしまった。つまり、人を死に追いやるほどの暴行を加えて死傷させたときに適用される傷害致死罪と同じように考えて、危険運転によって人を傷つけることへの故意があるとして重い罰とする刑罰です。この罪は、運転開始時点で正常運転が困難であったことの立証が難しく、極めて悪質な運転による事故でも立件できないなど、従来から欠陥が指摘されていました。
 道交法改正のきっかけともなった2001年鹿沼市での事故では、てんかんのある人がクレーン車を運転中に発作を起こして集団登校の列に突っ込み、6名の尊い命が失われました。事故を起こした運転手は運転時に発作を繰り返し、医師から運転を禁止され、いつかは人身事故を起こすと知りながら運転を続け、事故を起こした。危険運転への故意があったにもかかわらず、危険運転致死傷罪の立件はできませんでした。これは法の不備であるとの世論を背景に、法務省は危険運転致死傷罪に準じる新しい規定の創設について法制審議会に諮問しました。
 準じるとは、てんかん発作などによる事故を特に罰することができないため、特定の病気を政令で定め、「その病気によって正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合」に危険運転致死傷罪を適用する。つまり、危険運転への故意のハードルを下げて、「病気で危険な状態に運転中になるとわかって」運転して事故を起こした場合も同罪に「準じる」という意味です。法制審議会では、「政令で定める病気」について、てんかんだけをモデルとして議論されました。にもかかわらず、新刑罰の対象疾患は、運転免許欠格に当たる疾患(認知症と薬物依存を除く)とされ、統合失調症とそううつ病も病名で特定されました。
 国会での議論を経て、自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の2つを刑法から抜き取り、新規定等を加えて特別法*1(正式には「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」と呼びます)として成立しました。

病気に係わる条項は、病気であることだけを理由とした差別法である
 この病気に係わる規定を条文でみると、以下のようになります。
第三条2項 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する
 この条項はとても奇妙です。旧危険運転致死傷罪は、走り始めた時すでに危険運転ですから、事故がなくとも検問にあえば即検挙です。ところが、新規定では、「支障が生じるおそれのある状態」で走行しているだけでは、法に触れていないので検問で検挙されることもない。しかし、事後に重大人身事故を起こすと、運転開始時にさかのぼって、病気の状態への認識があった場合には重罰を科すという規定です。病気にある当事者にとっては、過失で人身事故を起こしても、病気の影響によるものではないと証明することは難しく、途方に暮れます。
 他にも重大な問題があります。第一に、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というのはどういう状態なのかわからない。将来に対する予見なので主観的であり、処罰の範囲が無限に拡がる可能性があります。第二に、第三条1項では酒気帯び・薬物運転を挙げ同じ規定をおこなっています。つまり、特定の病気にある人は常に酒気帯び相当であると法が認定したと言えます。第三に、道路交通法66条には「過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」という罰則規定があります。にもかかわらず、根拠なく特定の病気の人にだけ重い刑罰の対象とするのは,まさに病気を理由とした差別であり、法の下の平等に反します。第四に、自分が病気であることを認識していることが故意の第一要件なので,医療機関に定期的に受診している患者には適用されるのに,治療を拒否している人は,病気の状態を認識できないので本罪は適用されないというのも理解できないところです。

適用要件をある程度明確にした法務省ホームページのQ&A改訂版
 問題だらけのこの条項に対し、精神神経学会をはじめ「政令で特定された病気」の治療に責任を持つ8学会と、てんかん協会など当事者団体は削除を強く要望しまし
た*2が、昨年11月に成立しました。当事者の悲願であった障害者権利条約の批准が認められた同じ国会会期にこのような差別法を許してしまったのは、残念でなりません。成立しても、病気を有する者に対して不当な不利益が生じないよう、病気の状態像に見合った厳密な要件適用を医学的立場から要求するのは私たち精神科医の義務です。精神神経学会がガイドライン*3を作成したのも、この法を放置すれば当事者の生活と精神科医療にとって重大な脅威となるという危機感を抱いてのことです。
 国会でようやく精神科医が参考人招致され、精神疾患を対象とするのは立法事実がない(病気と危険運転の医学的関連はない)との意見を述べる*4ことができ、病気ではなく症状に着目して慎重に適用を定めるよう参議院で附帯決議がなされました。本法の政令制定に際しての意見公募でも適用要件を厳密にするよう求め、当事者団体、多くの国会議員、厚労省の力添えもあり、「政令で定める病気」の規定がいくらか改められましたことは、学会ガイドラインの8ページに述べられています。
 法務省のホームページにある本法に関する「Q&A」*5も、学会等の要請に基づいて改訂されました。印刷して全項目を是非ともご一読下さい。精神疾患にある人にとって重要なのは、本法の適用要件となる病気の影響による「正常な運転が困難な状態」、「運転に支障が生じるおそれがある状態」とはどんなものかという部分です(Q&A4-1, Q&A4-2)。病気の軽い症状であっても自動車の運転に支障を及ぼすことはないとは誰も断言できないのですから、ここは明確にしてもらう必要があります。Q&A4-1で、該当する状態は精神疾患では「急性の精神病状態」であると明記され、更に注釈で「急性の精神病状態について,公益社団法人日本精神神経学会の見解においては,数日単位で急に現れ,明らかに病的な行動の型(極端な興奮や過活動,顕著な精神運動制止,緊張病性行動)がみられる状態で,このような状態においては,行動は幻覚や妄想に相当影響され,意思伝達や判断に重大な欠陥が認められる」とされています。
 ここで一番重要なのは、急性精神病状態は、時間・分単位ではなく、数日単位で現れるという定義です。7ページQ4-6に、この罪の適用要件(起訴するための条件)が記されています。
「第3条第2項の罪は,①病気のために正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,②その状態であることを自分でも分かっていながら自動車を運転し,③その結果,病気のために正常な運転が困難な状態になり(この状態になったことは,自分で分かっている必要はありません。),④人を死亡させたり,負傷させたりした、という4つの要件が全て満たされたときに成立します」とあります。③の認識は不要ですが、①②の認識がないとこの罪は成立しません。とすれば、病気の人が人身事故をおこした時に本罪で起訴されるには、運転開始時には急性の精神病状態ではないが、それに陥るかもしれないという認識があり、運転後に急性の精神病状態になる、という条件を満たす必要があります。急性の精神病状態は、分・時間単位で生じるものではありません。ここが発作性疾患や薬物運転と大きく異なるところです。運転中に急性の精神病状態が原因で事故を起こしたとしたとすれば、運転開始時には既にその状態に陥っており、危険な状態を自覚する能力に欠けていると考えられます。また、そのような状態では、常識的には運転などまとまった行動はできず、入院相当であることが多いと考えられます。精神疾患に本法が適用されるとすれば、極めて限定的な状態しか考えられない、そのことを法務省が作成したQ&Aで認めたといって差し支えないと思います。

危険運転致死傷罪の病気に係わる条項は、廃止されるべきである
 病気に係わる本罪で起訴される人は、急性の精神病状態を想定すれば、立件されるのは極めて限定された例になるだろうと思われます。にもかかわらず、この法が治療関係に及ぼす影響は極めて大きいのです。通院せず病名告知をされていない患者さんは、本罪の適用となりません。告知や投薬を受けたことで、運転を仕事としている人が治療中断してしまう可能性が高くなります。
 厳罰化するとは、懲役刑を課すことでその行為を「割に合わない」ものとすることです。本罪の本質は、病気にある人は割に合わないから運転するな、ということです。要件や症状を明確にするということをいくらやっても、この本質は消えません。
 残念ながらこの法律は施行されています。私たち精神科医療・福祉関係者、当事者は、今何をすべきでしょうか。刑法罰に対する国民の法意識は、社会統制に関係するあらゆる行動の心理的前提条件として機能しています。刑法罰則は、一旦制定されてしまえば、それをなくす為には、相当の年月と社会変化、国民的合意がなければ不可能です。道交法の欠格事由の存在が、この差別法を生みました。今度は、この法が別の差別法を生む可能性があります。
 私たちが行動を起こさなければ、「精神疾患にあるものは危険な運転をする」という規定は、新しい偏見と差別的な疾病観を形成することになります。精神科医療関係者が、この法には立法事実がないことを十分に理解し、患者さんと家族に対して、この法の限定された適用要件を丁寧に説明し、状態の悪いときには運転を控え、通常の注意を払って運転することは法に反することではない、他の病気となんらかわりはないと説明することが必要となります。さらに今後も、社会に対してこの法の病気に関わる条項について廃止するよう発言を続けていくべきであろうと考えます。

* 「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
http://www.moj.go.jp/content/000109875.pdf

*2「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に関する要望書
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/files/20131018.pdf

*3 日本精神神経学会「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」 
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/guideline.html

*4 「自動車運転関連法案に対する精神神経学会の対応」衆議院・参議院 法務委員会の部分
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/

*5 法務省「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A」
http://www.moj.go.jp/content/000117471.pdf

【編集部から】
前回に続き、公開することとしました。運転免許取得・更新に際して、「こんな対応をされた」などの体験談を募集しています。また、ご意見、ご感想、ご質問や、おりふれ通信のご購読申込みもお待ちしています。
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精神疾患にある人の自動車運転に係わる法改定—どう対処すべきか(短縮版)

                                                    みのクリニック  三 野 進

はじめに
 てんかんのある運転手が起こした重大人身事故が続いたことがきっかけとなり、昨年道路交通法改正と自動車運転死傷行為処罰法新設がありました。残念ながら事態は、統合失調症、気分障害やてんかんなど特定の疾患にある人に一方的な責任を負わせ、厳罰化を推し進める方向に向かいました。
 日本精神神経学会(以下、学会とします)は、以前より精神疾患にある人を運転免許欠格事由に挙げていることに強く反対し、精神医学的根拠はないので廃止すべきであると主張してきました。制限するとすれば「原因に関わらず急性精神病状態にあり、認知・判断・行動の能力が明らかに低下し、運転に支障を来たす状態」という状態規定に留めるべきである。そうすることで真に危険な状態を拾い上げ事故防止に役立つことができるとの原則を繰り返し表明しましたが、受け容れられることはありませんでした。
 今回、特定疾患にある人の免許取得に制約を加えるだけでなく、ひとたび死傷事故を起こせば過失であっても通常人より重い刑罰を科すことを認める差別法(自動車運転死傷行為処罰法)が成立したことを学会は重く受け止め、反対の立場を一歩進めて「精神疾患では急性の精神病状態にある時に安全運転に支障を及ぼすことはあるが、病的状態にあっても多くの場合危険運転にいたらない」ことを明確に示すことにしました。危険運転となる例外的な状態を明示し、精神疾患にある人たちの大部分は運転適性があることを精神科医が説明することで、当事者が自動車運転の権利を不当に奪われたり、理不尽な刑罰を科せられる事態を避けられると考えたからです。
 2法が国会で成立した昨年末から政令や法の運用に私たちの見解が反映されるよう警察庁、法務省と折衝を重ね、本年6月に診断書の記載方法、政令の解釈、規制への考え方などをまとめた「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」を公開しました。
 精神科医のためと銘打っていますが、患者さんの運転に携わる権利とリスクの問題を示し、精神科医がどう対処すべきか、その原則を述べたものです。患者さんと家族、また医療・保健・福祉専門職の方々にも活用していただき、今後も改訂を重ね患者さんの生活に資するガイドラインにしたいと願っています。
 ガイドラインに含まれる診断書記載ガイドラインは、学会が警察庁に提案し合意したものなので、警察庁ホームページに掲載され、各都道府県公安委員会にも配布されています。公安委員会は、診断書の記載内容と判断基準によって免許交付の可否を決めます。免許交付を制限された場合には、この基準をもとにその理由を問うことができます。
 今回機会をいただいたので、学会ガイドラインの道交法関連の部分を解説したいと思います。なお、私は香川県高松市の一開業医です。今回の問題では精神神経学会法委員会を担当する理事を務めています。本ガイドラインの内容に責任を負う立場にありますが、この小文で述べた内容は一個人としての発言であることをご承知下さい。

(1)質問票への回答義務
 今回の道交法改定では、一定の症状を呈する病気による重大事故への対策という触れ込みで、「病気の症状についての質問票への虚偽記載への罰則」と「医師の届出制」が新たにもうけられました。
 従来から、免許更新申請書の裏面に病気の症状申告欄がありましたが、自筆署名する義務はなく、形式だけが存在していたと言えます。今回の道交法改定で、この方式では該当者を的確に把握できないとして「運転に支障を及ぼす症状について故意に虚偽の申告をした者に対して罰則を設ける」ことになりました。罰則規定があることから当事者の心理的負担は確実に重くなっています。病気にある人たちは申告すべきなのか深く悩み、運転免許の更新を断念する人もでるでしょう。
 精神疾患に限れば、実はこの新しい質問票制度は従来と変わっていません。精神疾患に係わる質問は「病気を理由として、医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている」という項目だけで、従来と全く同じです。症状に関する質問票なので、病気や症状に関する記載があってしかるべきでしょうが、本来そのような特別な症状はなく、法でも規定されていないのですから書きようがないのです。免許申請や更新の際には、患者さんは免許更新の直前に主治医と相談し、この質問について「はい」「いいえ」のどちらを回答するか相談しておけば、免許更新時に免許センターに行っても戸惑うことはないでしょうし、虚偽記載に問われることはありません。
 学会ガイドラインの【付記】Q&A1〜4で、患者さんが不安を抱かれることについて説明しています。全国各地の運転免許センターでは、「病気の症状に関する質問票の提出義務があり、虚偽記載したときには罰則がある」「一定の病気とは○○病です」と記載された掲示がありますが、これらの表現は言葉足らずで正確ではないことを確認しましょう。
 「病気等で不安のある方は運転適性相談窓口にご相談下さい」という誘導に対する対処も必要です。この窓口で病名を告げ、免許の可否を問うても回答は得られません。手続きの手順は説明してくれるでしょうが、病歴を聴取され主治医診断書を渡されることが大半であろうと思います。欠格病名に該当すれば、制度上、免許可否の決定は主治医か専門医の判断に委ねるので、そうするしかないのです。現状では、相談窓口に行くより学会ガイドラインを読むことで得られる知識の方が格別に多いのではないでしょうか。分からないことは主治医に質問すべきです。

(2)あらためられた公安委員会提出用の診断書
 相談窓口に限らず、質問票への記載内容によって、主治医の診断書を求められることがあります。従来の診断書は、診断時の症状安定だけでなく将来予測を記載することを要求されていました。現時点での運転能力の記載はまだしも、精神疾患が将来にわたって再発することはないとは誰であっても保証することなどできず、精神科医にとっては記載がはばかれる最悪の診断書でした。
 今回改定で診断書を要求される患者さんが増え、刑法罰との関係からも運転適性があることを積極的に証明する必要があることから、精神科医が医学的な判断により記載できる様式を提案しました。精神科医が書きやすいと思われる例示を整理し、公安委員会側の可否の基準と合致するよう合意したものが、学会ガイドラインの最後にある別添3「診断書記載ガイドライン」です。
 精神科医が警察庁の運用基準とこの記載ガイドラインを突き合わせて読めば、免許更新に制約を加えないためにどのような記載が必要であるかわかる筈です。警察庁はあくまで現時点での運転能力と将来再発するおそれの有無を求めていますが、私たちは病気の一般的な再発リスクと区別されて、それ以上の再発リスクがあるという表現で急性の精神病状態が運転能力低下をきたすことを示すことにしました。そして①特別な再発リスクがない、②あっても運転能力に影響はない、③安全運転能力を欠くことがあるが自制できる、の3条件をあげ、その場合には免許を保持できるとしています。「4その他特記すべき事項」に書かれた内容を、主治医に説明して貰えば、当事者にも内容は理解できる筈です。
 この「4」に記載が何もなければ、免許は更新されますが多くの場合6ヶ月後の診断書再提出となります。このことについては、主治医に念を押す必要があります。

(3)医師による任意の届出
 さらに今回の改正では、欠格に相当する病気の症状に該当する人を診断した医師は、その判断により任意に公安委員会に届け出ることができるという規定が設けられました。なんの条件もなく、医師が危険であると判断すれば、公安委員会に通報・届出できるとすれば、医師-患者関係に不信の要素を持ち込み、治療の不安定化をもたらします。また精神科医療機関への受診拒否の問題が深刻化することになります。
 近々日本医師会より「一定の症状を呈する病気にあるものを診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン」が公開されます。このガイドラインでは、届出にいたる慎重な手順が示され、精神疾患については、当学会ガイドラインを参照することとしています。学会ガイドラインでは、患者さんの運転能力が低下した状態にある4つの場合を考え、それを全て満たす場合においてのみ届出を考慮すべきであるとしています。
 現実には、この4点全てを満たす場合とは患者さんにとっても危険な状態であるので、殆どの場合入院などの医療措置に至ると思われ、医師が届出だけをするというのは考えにくいと思われます。
おわりに
 精神科医の実感としては、治療をきちんと受けている人が病気の症状を原因として交通事故を起こすことはまれで、事故を起こすリスクが高いのは安定した治療関係を持たない人であろうと思われます。治療関係を持たず医師からの助言を受ける機会もない患者には病気に対する認識もないので申告制度自体が無効で、罰則の有効性には疑問があります。
 繰り返しますが、精神疾患と交通事故との因果関係についての科学的な評価は存在しません。不幸な交通事故を防止する観点から、運転能力に欠ける人の免許を制限することには異論がありませんが、病気に罹患していることのみを理由として運転適性を有する人から免許を剥奪することは断じて許されることではありません。
 次回は、自動車運転死傷行為処罰法についてお話しいたします。

(参考文献・資料)
公益社団法人日本精神神経学会
「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」 
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/guideline.html


 【編集部から】

 より多くの仲間に読んで欲しいという当事者の方からの要望が複数あったので、著者の了解を得て短縮版を公開することとしました。ご意見、ご感想、ご質問や、おりふれ通信のご購読申込みもお待ちしています。

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精神疾患にある人の自動車運転に関わる法改定 記事資料

1 「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
http://www.moj.go.jp/content/000109875.pdf

2 「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に関する要望書
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/files/20131018.pdf

3 日本精神神経学会「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」 
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/guideline.html

4 「自動車運転関連法案に対する精神神経学会の対応」衆議院・参議院 法務委員会の部分
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/car_crash_penalty/

5 法務省「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A」
http://www.moj.go.jp/content/000117471.pdf

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