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あと出しジャンケンの弁Ⅸ ネオリベラリズムと「福祉」の運命

-ネオリベラリズムは「福祉」を極小化する-(補論)

岡本省三

[読者に] このシリーズの急がれる完結が不可能となっているこの時、幸いにもある論文に逢着した。拙論の極めて有力な補強材料としていかにその批判的分析を提供する。
[前置き] かの残酷無残な「後期高齢者医療制度」の強行導入は、「最小抵抗線に沿った」(2007年9月拙文)奇襲攻撃として、ネオリベラリズム(以下「NL」)が、およそソーリの顔の如何と無関係にその福祉極小化への既定の途を今や誰はばかることなく加速させている現実を示す記念碑的巨歩に他ならない。

 [一] 朝日新聞(4/1朝刊)が「高齢者ご注意 国内初の薬剤リスト」なる四段抜きチョーチン記事で報じた「高齢者向け・・・避けた方がよい医薬品リスト・・を国内初・・に公表」した「国立保健医療科学院の今井疫学部長らの研究グループ」による対象論文は次の通りである。「高齢患者における不適切な薬剤処方の基準ーBeers Criteriaの日本版の開発ー(日本医師会雑誌第137巻第1号2008年4月号84-91」共同執筆者4人のうちBeers M Hは他ならぬCriteria(1997)開発者と同改訂版(2003)共同開発者の1人Fick D M及び今井氏の部下他1名である。この他研究に当たった専門家委員会(9人)、また末尾謝辞では「多大なご協力者」4人の名が披露されている。
 [二] 批判的分析 (A)前提:この種「学術論文」の良心的な分析(特に素人がやるんである!)は、文面を超えた不明不審箇所の照会、未知の述語の勉強などを当然要請する。それが一切省略された理由は行文が自ら明らかにすると信ずる。 (B)同論文は「Ⅰ目的」で、「わが国における地域で生活している外来通院の65歳以上の高齢患者および養護施設(!)で生活している虚弱高齢者に・・・プライマリケア(!)レベルにおける不適切な薬剤処方の基準」として「Beers基準の日本版を開発すること」とする。
 まず①医療機関入院者の省略 ②プライマリケアレベルへの限定 の二点に注意せよ。NLは高齢者が専門医療施設のみが提供しうる充分かつ高度な医療の機会と場とを奪い、その外で、即ち養護施設(強化老人保健施設、特養ホーム、介護付き有料老人ホームetc)なるプライマリケアも疑わしい非医療機関で、そして何よりも自宅(それがあるとして)で、本人と家族(がいるとして)での死、を強要しつつある。
(C)かくして本論文の本質的特長はNLの喫緊の政治的・政策的要請に応えて、薬理疫学「専門家」の看板の下でのみ為し得る正解と覚しきものを一挙に提供している。誠に時宜にかなった貢献と規定することができよう。以下やや詳述する。
 ①「今日の治療薬」など拡大PL法対応の相乗作用・副作用情報を網羅的に満載している凡百のネタとは決定的に異なり、②中心的攻撃対象=高齢者に特化し ③日本医師会雑誌なる斯界最高権威(と思います)に公表と場を選び ④対象薬剤の「期間画定」をも抜かりなく行い ⑤一見所要の基準を満たした疫学的研究(それも国際的な!)の成果らしき体裁を備え ⑥極めてコンパクト(=使い勝手よし)な形をとるなどなど攻撃過程である程度は不可避な相手側の反撃(eg.訴訟提起)に対応すべき最良のツールとして甚だ有効有益な「新知見」ではないであろうか。
(D)(「こいつまたやってる、我田引水!ヤメロ!」のヤジあり)エー、次に進みます。「Ⅳ考察」の核心部分にクドクドと次の文が登場する。(この方たち皆さんこんな悪文が好きなのかドーか)
 「(この日本版どおりの処方を)実施していれば、高齢患者にとって望ましくない転帰になっても医療者側は医療訴訟を起こされない、あるいは起こされても負けない、というわけではないであろう。その逆に・・従わない・・処方を行い・・望ましくない転帰になった場合は、医療者側は訴訟の場面でより一層不利な立場になる・・・」云々 (何に比べてより一層不利な立場になるのか?それともアナタ方アプリオリにもともと不利な立場なのであって、それがより一層そうなるのかドーなのか。ついでにオリジナルのBeers Criteriaにもこんなことヌケヌケと書いてあるのかドーカ)
(E)「Ⅲ方法」について それが真に疫学的研究と称しうるには当然フィールドワークを中心とする長期にわたる多大な労力の確保、膨大かつ多様な協力者、対象薬剤の追跡・評価といった巨大な事業である他はない。「方法」の記述はその要約すら素人の私には困難であるが、ひとまず「専門家委員会」(9人のリストが掲出されている)については、ただ1回の会議(2006年9月)、その前後の「質問票」の送受が記され、最後に2007年1月決定されている。
 いずれにしよこれら手続きが冒頭の一般的要請を満足させているか否か、ここでいま断案を下す立場には私はいない。
(E)「Ⅳ考察」は冒頭「わが国の専門家委員らのコンセンサスにより、高齢患者における不適切な薬剤処方の基準が示された」と断定しつつ、「法的拘束力はない」だの「厳格に遵守されなければならないというものではない」などの「必要な留保之言」、さらに「すべてを網羅する基準ではなく」「使用禁止というものでもな」く(当ったり前でしょう!)、要は「代表制」が唱われ、そしてやがて(C)のアキレた本音=「真の目的・意味・存続理由」の自白となる。
(F)その他 ①末尾の文献20本(17本は英文)をみると、価値中立的なものを除けば驚くべき文献が羅列される。eg.15)にはExplicit criteria for ・・nursing home Residents 17)Centers for Medicare & Medicaid Sevices 5)the health care cost ・・in nursing facilities などなど。
 そしてⅢ方法で採用された「改良デルファイ法」は、かねて周知の代表的な反動的シンクタンクRand Corporation製である。これらの文献、ひいては本研究そのものが指向する方向が一体如何なるものであるのか、未知の人は取り敢えず次のものによって白日のごとく覚知するであろう。
○堤未果『貧乏大国アメリカ』(2008岩波新書)
○M.ムーア「Sicko」(DVDが入手できる)
②3頁を占めるリストについては膨大であり、その紹介には後日の労を要する(特に「商品名」の同定)が、一応紹介に値するものとして次号に掲載したい。   (以上)
                 

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