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拷問なき明日へ:拷問等禁止条約委員会と第1回日本審査

東京精神医療人権センター  小林信子

 2007年5月、ジュネーブで第38会期拷問等禁止条約の日本政府報告書の審査があり、5月18日には「拷問等禁止委員会」の結論及び勧告が出た。(まだ政府はこれを正式には発表していない) 
 読者の皆さんにはこれまで「センター」が拷問等禁止条約のNGOによるオールタナティブレポート作成に参加したことを系統的には報告していなかったので、報告をしておく。

1)これまでの経過 
 日本は1999年6月29日にこの条約を批准した。(おりふれでは同年10月~合併号で、永野弁護士による解説文掲載)この条約は被拘禁者の拷問や非人道的な処遇等禁止で、精神病院もその対象に入っているという重要なものである。批准国は1年以内に委員会に報告書を送らなければならないことになっているが、政府は5年以上たってもそれを履行していなかった。
政府レポートの提出をにらんで、それに対する代替レポートを作成しようという運動がNGOである監獄人権センターや、アムネスティー日本委員会によって進められ、被拘禁者の人権擁護という共通項目で「センター」も参加を要請された。受刑者問題を扱う監獄人権センター、入管問題を扱う入管問題調査会そして私達の「センター」のこじんまりとしたネットワーク、拷問等禁止条約の頭文字をとってCAT ネットを約2年前に結成した。2ヶ月に1回の会議は、私よりずっと若い人たちが人権問題に精力的に取り組んでいている様子からとても刺激的で有用だった。2005年、国がやっと政府報告書を作成し、公表した。私達も2006年から毎月会議を持ち、外務省や日弁連とも連絡を取りながらこちらのレポート作成準備に入ったのだった。

2)レポート作成までの顛末
 まず、政府のレポートを入手して読むことから始めなければならない。政府レポートは厚いものだったが、その2/3は、条約に関連する国内法を紹介しただけというお粗末なものだった。私たちNGOもそれぞれに対応してレポートをただ書けばよいというものではなく、短く簡潔に、委員に読んでもらう工夫が不可決なのだ。それらの研究をしているイギリスのNGOの解説書や、個々の知人のネットワークを活用してレポート作成法を研究することから始めた。CATを専門に扱うNGOがジュネーブにあったり、アムネスティ日本やインターナショナルに助言をもらったりと「日本のNGOもすごいなあ・・」と感嘆しきりの日々だった。作業プログラムを作りそれにしたがって、日本文、今年の1月にはその英語化と進んでいった。3月には、委員会のメンバーであるグロスマン氏が京都に来るし、しかも日本担当かもしれないというので、日弁連とともに会いに行ってプレゼンテーションをして“印象付け”?作業もした。私のスペイン語もちょっと役立った。
 そういう経緯で私も5月4日にはジュネーブへ行く予定にしていたのだが、入院中の父がその2日前に危篤となりやむなくキャンセルしなければならなかった。大きな機会を失ったし、複雑な精神医療問題は取り上げられないだろうと敗北主義が頭をもたげたが、そうでもなかった。ジュネーブからはCATネットのメンバーが電話やメールで連絡してきて、「精神の質問が出ましたから起きていてください」という命令や、「外務省のデータとこちらのものと食い違いがあるのだけれど」と8時間の時差を越えてやり取りをした。というわけで、現地でのNGOミーティング前後の3日間はオンコールしていた。

3)「センター」が主張してきたこと
 1条 拷問の定義 精神的拷問を含むことの意義と公務員によるものであること→日本の精神病院は90%以上が私立病院。そこに働く精神保健指定医は、精神保健福祉法(法)に従って遂行する業務のみを“みなし公務員”と規定し、強制入院(拘禁命令)や行動制限の判断をする権限を与えている。これが拡大化している。医療保護入院における指定医の役割は、臨床現場の実際とは異なって、強制権限を行使していないから、みなし公務員でないとされている。
*昨年からの法改正で「特定医師」は12時間のホールディングパワーが可能となった→法の根幹にかかわること。今後どうしても議論しなくてはならないし、自由権規約でも追及しなければならない部分
 10条-1 拷問の禁止について、関与する医療職員、公務員等に充分訓練されること→そもそも精神保健指定医登録には、医学的研修カリキュラムしか義務付けられていない。人権教育や拷問禁止の教育は、登録後の指定医研修カリキュラムにも取り入れられていない。
 11条 抑留又は拘禁について、体系的な検討を維持する→隔離・身体拘束は精神保健指定医の判断のみによって行なう行動制限と考えられている。医者性善説に基づく法体系
 13条 拷問を受けたと主張する者が権限のある当局に申立てを行い迅速かつ公平な検討を求める権利確保→不服審査のための精神医療審査会というものがあるが機能していない。上級機関へのアピールが出来ない。特殊な日本の精神医療制度のため、審査委員メンバーと利益相反があるのではないか?
 16条 第一条に定める拷問には至らないが、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱いに当たり、かつ公務員その他の公的資格で行動する者により又はその扇動により若しくはその同意若しくは黙認の下に行われるものを防止することを約束→最も重要。身体的な「拷問」は影を潜めたかもしれないが、精神的「拷問」も大いに存在している。公立・私立を問わず精神病院の入院手続き・入院中の処遇や環境自体が「非人道的で品位を傷つける」ものにたくさん該当する。
刑事施設・入管・精神病院に共通な環境は、少ない人員と少ない予算で多人数を管理することが日本の特徴だから。 

4)委員会最終勧告の意義
 5月21日に公表された「結論と勧告」では、NGOの主張やそれ以上のものが盛り込まれた。慰安婦問題や代用監獄についての勧告を、新聞でお読みになった方も大勢いるだろう。精神医療については残念ながらたった1項だが、根源的なことを以下のように言及している。

勧告25.委員会は、私立の精神病院で働く精神科指定医が精神的疾患を持つ個人に対し拘禁命令を出していること、及び拘禁命令、私立精神病院の管理・経営そして患者からの拷問もしくは虐待行為に関する不服への不十分な司法的コントロールに懸念を表明する。
 締約国は公立及び私立精神病院における拘禁手続きについて、実効的かつ徹底した司法コントロールを確保するために必要なあらゆる措置を採るべきである。

 日本の精神医療制度は、国際的に見て先進国の間でも特異なものである。日本の屈折した歴史を背負い、メディカルモデルが支配する、私立病院に働く医師が行政の代行をして患者を拘禁していることは、理解できなかったのではないだろうか。
民事収容において、司法が関与しない制度を持つ国はイギリスと日本だけである。(アジア諸国は日本の精神保健法を移入したので除く)国際人権保障に合致した入院手続きについて論争を国内で再燃させる必要がある。
精神医療にとって拷問等禁止条約が重要なのは、中立公正で迅速な審査機関の設立や拷問防止のために国内・国際機関の立ち入り検査の制度保障と同時に、何をもって「非人道的で品位を傷つけるとり扱い」とするかという根源的な議論が要求されているからである。
なお拷問等禁止条約の解説書として「拷問等禁止条約をめぐる世界と日本に人権」監修:村井敏邦・今井 直(明石書店)をお勧めする。

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