« 退院支援施設をめぐる厚生労働省との話し合い | トップページ | 2005年6月現在の東京の精神病院統計をみて »

水野憲一さん国家賠償裁判                  高裁でも完全勝利確定 !!

東京精神医療人権センター 小林 信子

 去る11月29日、上記裁判の控訴審判決があり、昨年1月31日の一審判決を上回る完全勝利が得られ、その後国が上告しなかったので、原告側の完全勝利が確定しました。人権センターもかねてから支援しているこの裁判は、「おりふれ通信」でも度々報告していますが、再度要約してみます。
 交通事故で有罪判決を受け、小菅の拘置所に収監されていた水野憲一さんが、初めての診察で長年服用していたリタリンを突然すべて切られ、訴えても処方してくれぬ苦しさに耐えかねて、独房にあった雑巾を飲み込んで自殺したという事件でした。

 水野さんはいくら精神科医療の門をたたいて処方薬をもらっても体が動かないくらいだるい日々だったものが、ある時リタリンと出会い、運送自営業をはじめ、結婚まで考える人と出会えるまでになったのです。そういう中、ある雨の日営業の車で人をはねてしまい、有罪判決を受けていました。八王子の拘置所から小菅に身柄を移されてすぐ、息子さんの自殺を知らされた母親は、国側から自殺に至るまでの経過を説明され、謝罪もされたそうですが納得できず、裁判となったものです。
 原告の訴えは、①やっと出会えた薬であるリタリンを、患者の同意なしで突然すべての量を切ったこと。②自殺企図があったので独房に移して、身辺のものを片付けたと主張するのに、小さな雑巾が房に残されていた管理責任③憲一さんの自殺を発見した拘置所の職員が適切な救命措置を取らなかったこと、に対するものでした。一審でも勝訴でしたが、国が控訴したので、判決文の中で原告としても疑問がある点を付帯控訴していたのでした。

 拘禁施設における精神科医療の問題としてとらえ、「センター」は裁判を傍聴してきましたが、被告の人権を無視した恐ろしい、医療の実態を知りました。控訴審でも、国側はちゃんとした反論もできず、判決時には国側の席は空っぽでした。また、いろいろな人が収監されている拘置所で、自殺を疑われる人はモニターで監視しているとのことでしたが、一旦、生命を危険に晒すようなことがあっても、そこでの職員は“てんかん発作”対策らしきものはできても、救命救急の措置などできないし、訓練もほとんどやっていないことがわかったのでした。別の建物にいる医者が駆けつけるのを漫然と待っているということを知りました。

 ともかく今回の裁判は、でたらめな拘禁施設の医療や、勾留者の生命・身体の安全確保を問うために、高齢のお母さんが頑張って行ってきたものでした。寿美子さんというお母さんは、近隣の友人やサークルの人たちのとても幅広いサポートを受けていて、「市民の底力」を感じました。精神保健の裾野で働く私としても考えさせられたことがありました。なくなった憲一さんがリタリンの長期服用者であったことを知った時、チョッと腰が引けました。しかし憲一さんはいろいろな医療機関を巡って、診断名も定まらないまま「残された最後の手段」として処方されたリタリンにより、生活が180度好転したということです。この裁判の支援者の中には精神医療ユーザーのご家族も少なからずいて、娘さんがいろいろな薬をどんなに試しても結局具合がよくならず、自死してしまったことを述べていた方もいました。「折角リタリンと出会えたのに残念だったですね」と話されていましたが、99人には害があっても、1人には劇的なよい効果をもたらす薬があるということも覚えていなければと思うと同時に、精神疾患(他の病気も同様だが)は結局ブラックボックスの要素があるのだということも忘れてはいけないことです。
 
 裁判で勝利する機会の少ないこの分野では、とてもうれしい完全勝利結果です。頑張った原告であるお母さんにおめでとうございますの言葉を送りますが、息子さんは戻ってこないのです。法務省はこの判決を真摯に受け止めて、医療体制や職員をもっと開かれた環境で働いてもらい、専門家のトレーニングを充実させ、塀の外の社会とのギャップをなくす作業に1日も早く取り掛かってもらいたいと願うものです。

|

« 退院支援施設をめぐる厚生労働省との話し合い | トップページ | 2005年6月現在の東京の精神病院統計をみて »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19973/13086310

この記事へのトラックバック一覧です: 水野憲一さん国家賠償裁判                  高裁でも完全勝利確定 !!:

« 退院支援施設をめぐる厚生労働省との話し合い | トップページ | 2005年6月現在の東京の精神病院統計をみて »