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『私たち、遅れているの? 知的障害者はつくられる』〔増補改訂版〕を読んで

米国カリフォルニア州で出版された『Surviving in the System:Mental Retardation and the Retarding Environment(制度の中で生き延びるにはー精神遅滞と遅れを招く環境)』を、日本の障害者福祉に詳しい秋山愛子・斎藤明子のA・Aコンビが翻訳したものを紹介します。

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『私たち、遅れているの? 知的障害者はつくられる』〔増補改訂版〕
カリフォルニア・ピープルファースト編
秋山愛子+斎藤明子訳
現代書館 2006年5月

編集部 木村朋子


原書は1983年にカリファルニアの知的障害者当事者団体、キャピタル・ピープルファーストが州の発達障害審議会に委託されて行った知的障害者の実態調査とニーズ把握の調査報告書です。この報告書は1984に出版されて以来、アメリカ国内にとどまらず英語圏の各国の当事者、福祉関係者に衝撃を与え続けたとのこと。人々を惹きつけたキーワードは「遅れを招く環境」でした。そして今、自立支援法にさらされている日本の私たちに、「遅れを招く」=障害者を一律に「処遇」し、社会から遠ざけ、自信を喪失させることではなく、当事者中心のしくみのあり方を考える上で時宜を得た増補改訂版の登場です。

 まず実態調査の結果、施設で大人の知的障害者は自立を阻害されている、その手のサービスを受けずに生活している人の方が却って良い生活をしていることが分かったというのです。
 その後ノーマライゼーションに代わって「セルフ・アドヴォカシー」がキーワードになり、これは直訳すれば「本人による本人のための権利擁護」ですが、知的障害者の支援者の「何でも自分が感じることや思うことを大切にしていいんだよ」との言葉が紹介されています。さらに「多くの知的障害者は自分がまるで価値のないもののように思いこまされている。失われた価値を取り戻し、自分の感情や考えを肯定し表現することに自信が持てるようになることが必要。セルフ・アドヴォカシーとはこのレベルから始まること」と、説明されていますが、精神障害者もまさに同じと感じます。

 結論の一つとして、「知的障害者が強くなるために」として当事者による組織づくりの方法を述べています。「なぜなら自分の障害に向き合うことを恐れている人は、障害を克服できなかったり、障害を補う方法を学習できなかったりするから」と。グループを支援、補佐するファシリテーターの重要性と適性についてもふれています。
 「遅れを招く環境」を変える提言として、ランタマン法等を受けての予算化、現在のシステムを地域プログラム中心に変える。ユニークなのは障害者の非課税の財形貯蓄として「自立生活預金」(仮称)制度化も提案しています。

 増補改訂版には8年後の今が追加取材されています。脱施設化が進み、形骸化していたIPP(個別サービス提供計画 詳しくは本紙4月号『知的障害者の「バディシステム構築とIPP作成事業」』参照)が厳密に本人中心でなければならないと法改正され、さらに「自己管理サービス」といういわばケアマネによらない自前のサービスの組み立てと契約も始まっているとのこと。またランタマン法の改正によりサービス監視機能も強化され、PAI(Protection & Advocacy Incorporated =連邦法に基づく発達障害者・精神障害者のカリフォルニア州における権利擁護機関)の中に州予算で当事者権利推進課が新設され、当事者権利推進コーディネーターが弁護士と組んで、相談、不服申し立てヒヤリングの代理人、権利の研修などを行っているとのことです。私がおりふれ紙上でPAIの精神科患者権利擁護事務所の報告をしたのは、1994年3月号のことでしたが、その後のことを知りたくなりました。

 海外の事情に疎い私にはこのような紹介がうれしいです。国によって文化の違いもありすべてを取り入れることはできないでしょうが、私たちの活動のヒントになればうれしいですね。(佐藤記)
全文は、おりふれ通信紙8月号でご購読連絡先:FAX03-3366-2514、新宿区西新宿7-19-11児玉ビル301 おりふれの会

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