« 書評 『統合失調症からの回復』 リチャード・ワーナー著 西野直樹・中井久夫監訳 岩崎学術出版社刊 | トップページ | 知的障害者の「バディシステム構築とIPP作成事業」 »

中国のある精神病院“事情”その2 中国公安部「安康医院」参観報告

司馬 両々

<編集部から>前号で、日本の大学院で刑法を勉強されている留学生の司馬さんに、「中国のある精神病院“事情”」として一般入院先の市立病院の報告をしていただきましたが、今回はその続き公安部所属病院のレポートです。

場所 中国観光地として有名である都市から30キロ位の田舎にある。さらに国道から3、4キロ離れていて、場所的にはかなり不便なところである。しかし、埃だらけの田舎道の突き当たりに、別世界みたいな存在としてある。ここは、中国の公安部所属の「安康医院」(司法精神病院の通称・編集部注)である。後ろは山で、前のほうは中国の古典式の庭が作ってある。

登場人物 接待した人は医務官課長の人物である。最初持ったイメージは中国の典型的な官僚であるが、話しているうちに、印象はちょっと変わって来た。やはり相当な知識をもっている医者だと思った。

入院要件 司法入院(裁判所・検察)、行政入院(監獄・警察)と民事入院(日本における医療保護入院)

入院の判断基準 基本的に自傷と他害のおそれではなく、確実に違法・犯罪行為を行った人に対する鑑定をしてから、入院させる。(司法と行政による入院の明確な区別はないようである。)

病床数 500床(2005年11月現在) 2004年の300床と比べると、大幅に増加したそうであるが、これからも増える傾向が見える。国の予算の縛りなどはそんなに厳しいものではなく、患者が増えれば、物理的な環境が許すかぎり、ベットが増えるのは可能であろう。

予算 今年の予算は2000万人民元(換算すると三億円である)

法的根拠 ①杭州市人民代表大会(地域的立法機関)の地方法
②全国人民代表大会(全国最高立法機関)では、中国精神衛生法を積極的に制定するように努力しているが、今現在15回の法案改正案に至っているだけで、まだ施行の見込みがない。刑法学会もそのような議論を聞いていない。
③今現在各省・市は各自の法制定活動によって、それぞれ違う。各省が統一するのを辛抱強く待たなければならない。

退院手続き ①民事入院(250名前後) 安康病院とは本来強制入院の精神病院であるが、民事入院も受け付けている。民事入院は相当簡単に行なわれているようである。家族・引き受ける人が居れば、寛解期に入った患者は何時でも退院できるようである。
②行政・司法入院(250名前後)殺人などの重大行為に対して、最低3年間の入院が必要だと病院側は思っている。(法的根拠は別として、病院側が勝手に決めている)引き受ける人がいれば、三人の精神科医 の判断によって、退院させることができる。この判断の基準は、現在の患者の精神状況だけではなく、 社会への危険性の予測も入っている。具体的な尺度は教えて貰わなかった。
 その一方、家族や引き受ける人が居ない場合は、病院側は患者を退院させないケースがたまにある。一番長い人は入院50年とのこと。

内部参観 病棟は五つほどで庭付きである。主建物の横にある一番近い男子病棟の中を見に入った。ちょうど午後2時前後で、暖かい良い天気だった。患者さんと看護師・精神科医みんなが庭の中でのんびりしていた。患者たちは統一した縦じまの患者服を着て、草の上に横になったり、座ったりしていた。精神科医か男性の看護師かよく分からないが、一人立って、もう一人は座ってタバコを吸っていた。ほとんど話はしておらず穏やかな午後を過ごしている光景だった。

配置図 
     │病棟│  庭    それから病棟に入った。最初の印象は天井が高いこと。
    │観察棟 │        かなり高かったのである。
      玄関

                  玄関
│   │病室│病室│医師室││病室│病室│病室│病室│病室│
│食堂│            回   廊                  │
│   │ 給食室 │ ナース室│保護室│保護室│保護室│病室│

 病室は全員ベッドである。ベッドの隣に小さい棚があって、全部施錠されている。一つの病室に8-10個ベッドがあり、患者たちは外の芝生で休んでいるので、開放感と明るさがあった。しかし、
精神病院として清潔すぎて、不思議な感じがする。ナースステーションの看護師を見ると、かなり小柄で若い女性だった。
 気になるのは保護室である。
    
                   │鉄門│ベッド│便座│
  ここは施錠している鉄の門 │鉄門│ベッド│便座│
                   │鉄門│ベッド│便座│

 保護室は当時二人入っていた。投薬されたらしく静かに寝ていた。しかし古い鉄の扉で、外から施錠されるため、患者にとっては決して安全な場所といえないであろう。廊下から保護室内が一目瞭然のため、通風が良いであろうが、プライバシーは全く考えられていない。多くの場所は防犯カメラが設置されていた。観察棟の二階にあるカメラをコントロールする専門職が居て、24時間この病棟の各カメラを切り替えながら監視している。

私見
①ハード面から言えば、施設の内部はあまりにも綺麗で、不思議な感じがする。この施設と広がっている周囲との対比が激しすぎて、政府が思い切ってこの施設を作った感じがしないではない。しかし、施設の中に清潔感があるのは良いことだが、私物など全然ないのはちょっと違和感がある。
②ソフト面からすると、精神保健福祉法が立法されていないことが一番大きな問題だと思う。地域的な法律があるが、入退院などについての細かい尺度がないため、すべての準則と解釈が病院側の判断に委ねられているのはあまりにも危険なことであろう。
③司法鑑定について、中身について考察できないが、単に鑑定時間から見ると、短期間で簡単な鑑定しかなされないようであろうと思う。
④今は中国の精神保健法の立法過程にあるのだが、刑法学界においてはこの問題についてはかなり沈黙している。デリケートな問題なので、皆が慎重に研究しているのか、小さい問題なので、みんなが気にしていないのか、私にはよく分からない。


|

« 書評 『統合失調症からの回復』 リチャード・ワーナー著 西野直樹・中井久夫監訳 岩崎学術出版社刊 | トップページ | 知的障害者の「バディシステム構築とIPP作成事業」 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19973/10002371

この記事へのトラックバック一覧です: 中国のある精神病院“事情”その2 中国公安部「安康医院」参観報告:

« 書評 『統合失調症からの回復』 リチャード・ワーナー著 西野直樹・中井久夫監訳 岩崎学術出版社刊 | トップページ | 知的障害者の「バディシステム構築とIPP作成事業」 »