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サルサと葉巻だけでなくーキューバの精神保健―

                        http://pb.rcpsych.org/cgi/content/full/26/5/185
S. R. Collinson, T. H. Turner
Psychiatric Bulletin (2002) 26: 185-188 より仮訳

この文章にあるキューバの精神病院(HPH)に、ほとんど同じ時期に訪れる機会があった(おりふれ通信211号で紹介)。少し古くはなってしまったが、私の文章で足りなかった部分もあるのではないかと考え、この場で再度紹介したい。 訳責 中嶋 康子

 西側の保健の最優先事項の観点から、境界的な性質を与えられている精神医学にとって、全く異なった政治システムを持つ国が精神病をどう扱うかは、常に調査する価値がある。
 キューバは40年間合衆国から通商を禁止され、ソ連の崩壊を受けてかなり厳しいものとなった。合衆国は、食品の販売を禁止、特に合衆国の製薬産業の優位を与え、キューバが世界水準の新薬を市場から購入するのを半分は止める効果をもたらした、薬品や医療品の制限を厳しく行った1989年から1993年の間にキューバの国内総生産は35%下がり、75%輸入が縮小した。特に医薬品メーカーによる薬品や医療品の制限を厳しく行った。それにより、必要な資源の入手が難しくなったが、キューバの人々の健康状態を保つことについては、逆に予防的初期ケアのシステムを発展させ、幼児の死亡率はワシントンDCの半分である。それだけでなく、バイオテクノロジーや家庭医療においては、発展途上国のための人的資源としてキューバで開発されている。また、キューバの医学校では世界中の多くの発展途上国の医師が勉強している。
 キューバ憲法は、医療を受けることは全ての国民の権利であり、政府の責任であることを明記している。医療システムは、一般的で包括的な医療に基づき、薬などは低価格ですむようになっている。カストロ政権は、首尾一貫して医療システムの資源に投資していた。現在キューバには6万人の医師がおり、214人に1人の割合で医師がいることになり、この数は世界一である。272病院と442のクリニックがある。2001年に新しく4つの精神保健の中心と作業療法の複合体の開発が含まれるプロジェクトが組まれている。「革命的医療」の教義は保たれており、精神保健の遺伝子的局面だけでなく、予防や社会的なリハビリもまた重要であるとされている。このような事を確認するために我々は、2001年1月に首都ハバナの西にあるマソラ(Mazorra)として知られるハバナ精神病院(HPH)を訪れた。
 HPHは1853年にヨーロッパ型の収容所として作られた。敷地は7ヘクタールあり、広々とした芝生と花壇に囲まれた1階建てのパビリオン型の建物からなっている。1959年にHPHはキューバでただ1つの公立病院で、それ以前は全て私立のクリニックだけだった。私達が会った医師は、病院が「狂人の家」と呼ばれていた1959年以前については話すのは気が進まないようだった。しかし、私達は病院の広い保管所で広範囲な記録を見せられた。1859年からの病院の写真は、植民地時代のパターナリズムのイメージから、バチスタ時代の絶望を通過し、カストロ体制化の人道主義的変化へと続いている。1959年からの写真は清潔な白い服の患者達が自分達の病院を建てる手伝いをしている所を見せている。
1959年以前は、HPHには2000床の病院に、診断名もない患者が6000人も収容されていた。彼らはマットレスもないベッドに、ロープや手錠でベッドに拘束されていたり、きちんとした部屋でなく、廊下や床で生活していた。また、ハンセン氏病などの身体疾患のある患者達も収容されていたし、小児病棟もあった。患者達は様々な精神症状を呈していた。当初からの責任者であったデュキュンヘ医師の指導の元、精神科医と心理士のチームにより、患者の病気の診断を行いながら病院を変えていった。そして1960年代にはヨーロッパに行き、新しい治療法を獲得した。主にフランスやスペインで経験したリハビリテーションモデルを取り入れていった。それらの2つの国とは現在でも職業的な協力関係にある。現在HPHでは2000人の入院患者がおり、別の2000人が地域で生活している。キューバ全体には3つの精神病院があり(カマグエイとサンチャゴ・デ・キューバ)、HPH以外は500~600床である。また14の州には総合病院に併設された20~30床からなる精神病棟がある。HPHの入院者は、リハビリテーションが必要な統合失調症の患者がほとんどである。
キューバには1000人の精神科医がおり、そのうち200人は小児専門医である。医学生は3年間の一般医療、更に3年間の特別なトレーニングをつんで精神科医になる。150人の医師がHPHで働いているが、50人は精神科医ではない。HPH内には身体疾患用のクリニックが併設されており、レントゲンや、心電図、脳波など身体疾患の検査設備がある。患者に手術が必要な時は総合病院に転院する。精神病院は急性期や救急、法廷で扱われるような事例や、リハビリテーションまでのあらゆる特殊性を備えている。65歳以上の老人は、重要な法的な事例のみ引き受けている。
精神病院にいる多くの患者はキューバ精神保健法による強制入院者である。総合病院の精神科に入院している患者は、ほとんどが同意による入院者である。入院に至る過程はイギリスと似ており、2人の精神科医(そのうちの1人は入院病院の医師)と家族の署名を必要とする。最初に72時間の指示が出され、その後長期になる場合は3ヶ月毎にレビューがなされる。キューバの精神保健法が最後に公布されたのが1983年であり、カナダのシステム(患者の権利や同意をとること)が参考にされた。
治療は一般的にはリハビリテーション・社会療法・作業療法・薬物療法を併用したものである。特に作業療法には力を入れている。社会主義者の変化や、他のマルクス主義者の精神病に関する理解を得た時の評価と同様に、HPHの医師らは「薬物療法とリンクした社会療法」についても語り、キューバの職業作業療法が、単なる運動療法を越えて情緒的・社会的便益の両方の生成を目指したもので、欧米の限られた方法よりも発展したものだと考えている。電気ショック療法も行われているおり、有効であると考えられているが、専門家の中でも意見が分かれている。薬物については一般的な向精神薬や抗うつ剤は使用されているが、非定型薬は大変限定されている。オランザピンについては話されたが、それはフランスやスペインからの限られた病院や施設からの援助に頼るしかないようだった。プロザックは三環系抗うつ剤と同様使用されている。
病院には2000人のスタッフがいる。彼らはよく訓練され、患者と熱心に対話しスポーツや音楽療法等の活動に熱心に従事していた。また、私達は患者達による音楽ショーに出席した。
精神疾患以外の診断名としては拒食症や過食症はわずかしかなかった。病院には薬物依存専門病棟(DDU)があったが、外国人のためのもので、ベネズエラやコロンビアのスペイン語圏の人達がいる。それは特別な収入を得る方法に見えた。キューバは麻薬の取り締まりが大変厳しく、薬物乱用者は大変少ないが、ラム酒が広く飲まれているためアルコールの問題は抱えている。しかし、最近コカイン依存者が発見され始めた。DDUでは集中的なグループセラピーが行われており、他の国でも使われている方法である。
患者の多くは週末に家に帰り、日中だけを病院で過ごし作業療法などを行っている。また「夜間病棟」があり、日中は仕事をするなどして外部で過ごし、夜を病院で過ごしている。地域ベースのチームがあり、ハバナ地区(人口300万人)で活動している。それぞれの患者には担当のソーシャルワーカーがいて、地域ベースでの治療を受けている。地域では、精神科医を志している医学生が一つのテントで2ヶ月間ごとに交代するシステムをとっており、注目すべきことである。キューバの医療の中で精神科医のステイタスは高くない。
地域で起きる「不幸な事件」について医療チームとして十分に協議されていたり、法的な手続きを踏んでいた場合、医師が法律家から攻撃されることはない。私達を案内してくれた医師は、患者の開放を決定する時の責任については、資本主義社会との間とは違いがあると感じている。それは資本主義社会の精神科医は、患者を開放する時のいかなる決定についてもある種の責任を負うことである。患者は地域の機関でフォローされ再発を予防している。精神障害者の事件がスキャンダルとして扱われることはない。それは、報道機関の考え方にもよるし、医者がメディアに権力を持たせないことにもよる。
キューバ内での資源は不足しているため、キューバ政府は新しく外国人向けの特別な医療や、生活の質の改善を提供した、ヘルスツアーを企画した。これにはスペイン語圏や、北米の人々が訪れている。
最後に、キューバの精神医療は全体的によく組織され、熱心なスタッフに支えられていた。懐疑的な西側の人間は、私たちが、見せるため専用のものを示されたのかと疑うかもしれない、しかし、病院全体の印象は、注意の行き届いた、よく組織された機関だというものだ。カストロの42年間の政権は、貧困や欠食や病気を包括的な社会福祉政策によって根絶したことは注目すべきことである。ここで行われていることは、世界の精神保健に携わる人々への現実的政治上の教訓になることではないだろうか。

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