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“People Say I'm Crazy”と私

本紙前号において広報した『日米精神保健秀作ドキュメンタリー上映会in練馬』での最初の上映作品“People Say I'm Crazy”のこの国への紹介に渾身の労を傾注された上村君代氏は、当日カナダから飛来され、舞台挨拶の後、最前列で最後まで熱心に観入られた。ここに私たちの懇請に応えられた氏の見事な寄稿を掲載し得ることを心底から光栄とするものである(岡本省三)

在ヴァンクーヴァー 上村 君代

5月30日夜、練馬区大泉学園ゆめりあホールで催された「日米精神保健秀作ドキュメンタリー上映会in練馬」は、日加精神保健交流協議会の岡本氏はじめ、多くの方々のご尽力で大成功に終わった。
 “People Say I'm Crazy”は、字幕を読むという労働にもかかわらず、170席余の全員が観入っているのが感じられ、初めての一般公開にこれだけの方々が雨の中を来てくださったことも含めてうれしい限りであった。
 大スクリーンやその他の設備の整ったホールでの上映は、この映画を初めて観た時の感動を甦らせた。
 これ程自分を真向から見つめ、心の「闇」の中までさらけ出して、それをカメラで記録することがどんなに難しかったことか、と感服する。「正直に」と言うことがいかに難しいことであるか、この映画を観るたびに思い知らされ、作者と彼の家族の勇気に頭が下がる。

 病気の治癒は受容から始まる、とどこかで読んだ気がするけれども、真の受容には「闇」の部分が必ず含まれ、それがどういうことなのかが、両記録映画によって描かれていると思う。「べてるの家」は七本ある予告編の第一部であったが、今、カナダで見直しが行われている「地域精神医療」の行く先ー光ーが見えたような気がした。カナダでは当たり前の「地域精神医療」とはいっても、基本的に「プロ」が「病者」を治療するというスタンスに変わりはない。故久良木幹雄氏がよく言っておられたが、ものさしをどこに置くかで「普通」の基準が変わる。ということは、「べてるの家」のようにもっと各個人の「普通」を大切にしなければいけないのではないかと思った。
 6年前に発症し、美大の3年まではどうにか進めたものの、薬物に頼りすぎる北米の治療で副作用に悩まされてきた我が娘は、今、バイトをしながらアパートでの独り暮らしをしている。彼女の発症から家族とし
てともに闘病してきて─と言うと彼女に怒られるかも知れないが、“People Say I'm Crazy”にも描かれているように、家族の支えは最も、と言って良い程重要だと思う。

 昨年、カナダで国が出した統計によると、躁うつ病を持つ成人の70%近くが就労し「普通」の生活をしており、その二大要因は適切な服薬治療と家族の支えだそうである。
 ヴァンクーヴァー地区精神保健サービス(公共)では、家族を治療チームの一員に加えることを公的にシステム化しようという方向で検討中である。これまで個人の権利を重んじるがあまりの不祥事(殺人も含めて)がおこり、見直しが始まっていた。当事者の「普通」を一番良く知っているのは家族である。SSRIの抗うつ剤が引き金になった亜躁状態をうつ状態の悪化と診た娘の主治医は、娘の「普通」を知る私に耳を貸さず、服薬量を2倍に増やした。娘は3週間後に措置入院となった。それから数年経ち、二年前のヴァンクーヴァー国際映画祭に選出された“People Say I'm Crazy”を観て、私は何かに突き動かされるように「日本語字幕を付けさせてください」と、招かれていた作者と制作者の一人である作者の姉に申し出た。80年代後半から通訳という仕事で関わるようになった精神保健分野、そして、故久良木氏の支援で交流が始まった日加精神保健交流協議会を通して広がった人の輪を通じて取り組んだ日本語の字幕付けだったが、今年初めにはインターネット(http://www.peoplesayimcrazy.org)で購入できるようになり、教材用として何度でも使うことができる。できるだけ多くの方に観ていただき、病気の正しい理解とそこから始まる治癒の手だてになればと思っている。
 この映画はヴァンクーヴァーで去年から始まった、“Frames of Mind”精神保健映画祭の初日にも上映された。5月に二回目を迎えたこの映画祭は、ブリティッシュ・コロンビア大学精神医学部www.psychiatry.ubc.ca/cme/film/schedule.htmと会員制映画館の共催で行われ、世界各国の映画から選出される。土・日は午後に数時間のワークショップも組まれ、中・高校生対象のものまである。ことしの最終日は、短編アニメーション部門でアカデミーを受賞した“Ryan”と、“Out of the shadow”(米2005)であった。精神分裂病の母親を題材にしたこの記録映画も、又、「字幕を付けたい!」と思わせる秀作であった。来年初めにでも完成できればと思っている。

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