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北海道の医者からみた東京の精神科事情

伊東隆雄

(編集部より)
以下の記事は、昨年春、オホーツク海に面した一地方都市で長年での精神病院勤務を辞め、「思うところあって」東京に出てきた精神科医の印象記です。大学の同人雑誌に掲載されたものを、了承を得て転載させていただきました。

 小生は今、東京北区の小さな単科の民間病院に勤務しています。入院患者の大半は分裂病圏です。半年ほど病棟に出入りしていて、あるときふとあることに気がつきました。それは病棟の中で、区の保健婦さんや福祉のケースワーカーさんの姿を見かけないということでした。北海道にいた頃は、毎週うるさいほど(失礼!)保健婦さんやケースワーカーさんが病院に押し寄せてきて、患者の状態がどうなっているだの、これからどうするつもりだの、質問攻めにあっていたわけですが、こちらではとんとそんなことがなかったのです。小生が非常勤だからと思いきや、他の医師のところにもほとんど押しかけている様子はありません。生保の患者が入院して一週間しても二週間しても、担当ワーカーから何の音沙汰もないのです。不思議に思ってあるソーシャルワーカーさんに尋ねてみました。すると、その界隈では、医師から要請がないと行政職員は病院には出向かないとのこと。年に1度か2度の義理訪問以外は顔を見せないということでした。理由を聞いてみると、生活できないほど状態が悪いから入院されているので、行政としてやることがないからとのことでした。一旦入院してしまったら、生活者として見るという視点が完全に欠落しているという印象を受けました。たまに面会に来てもらったらどうかとソーシャルワーカーにいうと、不思議そうな顔をしていました。
 一般科とのミゾ:
 東京都の精神保健福祉課では身体合併症の転院先の紹介事業をやっています。肺炎やイレウスなど、手のかかる合併症の患者を引き取ってくれる病院をさがして、紹介してくれるという事業です。受け手はおもに松沢病院ですが。その話を聞いたときは、素直にすごいなあと感心しました。さすが大東京、親切だなあと。でもよく考えてみるとなんか変だなあと思いました。北海道で合併症の患者が発生したとき、道庁に電話して転院先をさがしてもらうなんて考えられるでしょうか。ありえないことですよね。これは要するに、お上の力で探してもらわないと、受け入れ先が見つからないというお寒い事情だというわけです。
 東京は精神科をもつ総合病院が極めて少ないということがあるかと思います。しかしそれだけではなく、一般病院にとって精神科はいやなところのようです。北区の近くの病院に入院依頼して露骨に断られたことがありました。「うちの○○のドクターはプシ科の患者は診ないんですよ、すいませーん」てなわけです。先日も糖尿病で内科に通院している患者が、意識が朦朧としたり、歩行がおぼつかなくなり、ついに尿閉まで起こして、かかりつけの病院に行ったところ、精神薬の副作用だから精神科に行けと追い返されました。救急車で来院した統合失調症の患者さんの緊急採血したところ、血糖は4百あまり、CPKが数千、LDH,GOTも高値で、どうみても内科のもんでした。あらためて都の合併症ルートで転送しましたが、こんなことがよくあります。とんでもないことだと思います。

{感想} 人権センター  小林信子  
はい、ご指摘の通りとんでもないことです。悪名高き都の精神科救急制度に加え、入院者は行政からも忘れられています。私は長期在院者への定期訪問を続けていますが、担当が替わった福祉のワーカーが挨拶に来るというのも、希少例です。保健師さんが面会に来てくれている人は皆無です。以前はそうでもなかったようですが、保健所の再編とデイケア設置が、病院を忘れさせています。他科の精神科差別というより、医者の精神科への偏見はひどいものです。
体験者の声を集め、医学教育の中でカリキュラムを設けてもらいましょう。同時に、東京は単科精神病院がすでにありすぎたから、精神科が総合病院に設けられなかったのでしょうか。考えてみるに値するご指摘です。

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