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ある民間精神病院で その2

民間病院勤務者 東野みどり
                   
 前回、入院生活30年の人が「退院したい」と初めて声をあげた話しを次に書くとしたが、この件は恥ずかしいことに未だ決着をみないので、別のハナシを。
 今回は病院職員と入院患者との関係について少し詳しく記してみたい。さて、話を進める上で便宜的に、開放的で先進的、患者と職員は立場は違うが対等な位置関係をめざす病院を○病院としよう。8割近い職員が患者さんの名前を呼び捨てに(その人の面前でもです。閉鎖された空間の中にいる強者の側の人間は何でもできる。歯止めになるのは個人の倫理観のみ。病院のトップが全員呼び捨てにする人だった)する病院を×病院としよう。公然と職員が患者さんを呼び捨てにはしない、が、だからどうしたという当院を△病院としよう。
 ○病院では、一応一定の職員教育を施
しているから、個体差によるばらつきはもちろんあっても、そう失礼ではない職員が多くいる。またそういう病院では、他者(職員)の失点、欠点、短所を鋭く突く患者さんもエネルギッシュに活躍していたりして、そう失礼ではないはずの職員も結構に悲しい思いをしていたりする。もちろん主治医攻撃をきっちり行う立派な患者さんもいたが、人間攻撃が許されるのであればどちらかといえばまずは弱い方へ流れるということもあり、「若い」とか、その患者さんから見て重要でないと目された職員が矢面に立つこともあった。
 ×病院では、患者さんから見れば「信頼できる職員」というのは「黒い白馬」と同じようなものなのではないか。「すごく恐い職員」と「(恐い)職員」の2種類。△病院ではどうかというと「恐いまたは嫌いな職員」と「フツー」、「チョイマシ」の三段階。ま、この辺りは自ら「チョイマシ」と思われてるだろーと思っている私の類推なので、割り引いて読んでほしいが。
 何でこんなことをつらつら書いているか
というと、入院中の患者さんの中には(というか人間はというか)、おそらく自分の認めたくない何かを、自分の中に認めて見つめるという作業をしないと次に進めない人がいる、と十何年か病院の中で働いてきて思うからだ。誰だってこんな事は嫌なわけで、普段の私達はできるだけそういう事態を避けて生きている。けれども、もししなければならないとしたら最低限『自分が認められている』『自分が弱みを見せても決して攻撃されない』と実感できる環境か、人間関係の中でしかやれない。×病院では不可能。
 △病院でももちろん苦しいところだが、患者さんはよく職員を見ている。本当は相談相手がほしいし、信用できる職員がいてほしい。精神病院の職員の仕事の一つは、患者さんをよくみることなのだけれども、『げ、私は観察されている』『私のしゃべる事を聴かれている』と思うことがよくある。職員同士の職員評価や職員による患者評価よりも、患者さんの職員評価や患者さん同士の評価の方が、情報量も多く正確だと感じることもよくある。
 そうして患者さんにとって「こわい、油断のならない職員」を賢い患者さんがどう扱うかというと、これは媚び倒す。○病院で働いていた時、媚びられた記憶はないはず。×病院では、私は「ナミのコビ」を受け、某職員は「特段のコビ」を受けていたのだが、なんせそれまで媚びられる経験がなかった私は、「なんであんなひどい奴があんなに患者さんからほめられるのか!患者さんには見えて、私の気づかないすごい魅力か能力があるのだろうか」としばらく悩んだが、1年してようやく分かった。あれは憲兵へのコビだった。
 △病院では、職員である私へのコビはあるはずだが、私自身にはよく見えない。昨日ある職員が私達のいるところへ入ってきた時、周りの賢い患者さん達の間にパッと緊張が流れ、次にコビが始まった。前の病院の経験で、自分へのコビは見えなくても他人へのコビは見えるようになっていたので、「あっ」と思った。
 コビ能力は世間でもないよりはあった方がいいかもしれないから、それ自体は悪くないが、問題は患者さん達がそれの習熟以外のことに目を向けたりエネルギーを割いたりすることができなくなってしまうこと。そして「油断のならない、質の悪い職員」はますます増長して思い上がる。時々は五分で怒鳴りあわないとしかたないのでやるけれど、本当に疲れる。
 次回こそは、ちゃんと患者さんとのもう少しデリケートな話をしたいと思っているけれど自信はない。ではまた。

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