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保護室を空っぽにする (1)―道立緑ヶ丘病院急性期病棟の試みー

東京精神医療人権センター 小林信子
                   
 「夜間パトカーで都立墨東病院につれていかれ、理由がわからないうちにベッドに縛り付けられ点滴され、隔離室に放置された」「警察に府中病院に連れて行かれ、何も聞かれず身体抑制され、隔離室に入れられて怖かった」という訴えが電話相談に4,5件続いてあった。いわゆる緊急措置入院のケースで、人権侵害ではないかという訴えである。東京都は「患者様中心の医療」を掲げているにもかかわらず、問題多い精神科救急の現場では、身体拘束と隔離室使用がほぼマニュアル化されて運用されている様子が見てとれる。しかも、精神病院の日常においても、身体抑制付きあるいはなしでの保護室利用は、ほぼ“治療手段の一形態”とされ、国連「原則」はいうに及ばず、厚生省告示130号にある「(隔離・拘束)以外に代替方法がない場合において行われるものとする」などすっかり忘れ去っているようだ。急性期病棟では、保護室の奪い合いがあるという。急増する隔離・拘束問題への多くの苦情が「センター」に寄せられ続けているが、有効な活動ができずに暗い気持ちの日々を送っている。

 そういう中、北海道立緑ヶ丘病院の急性期入院第4病棟では今年の春頃から保護室

使用ゼロという目標が(もちろん途中のジグザグはあるが)達成されつつあるということを偶然に知った。この病院でもここ10年間は“保護室が空っぽ”という現象はなかったということで、かって私が体験入院した病棟でもあるが、当時保護室は結構ふさがっていたようだった。
2002年4月からS医師が病棟担当医となり、今年になって徐々に保護室使用の減少成果が出てきたというのだ。「何をどうしてそうなったのか?」を絶対に知りたい!S医師にメールであれこれたずねても「そんな特別なことをしているわけではない」と謙遜ばかりでつかみどころがない。
ただ、4病棟担当となったS医師は「個人的傾向として保護室使用は好きではなく、出来れば使いたくないと言う気持ちは強かった」と告白してくれた。今回訪問時に頂いた2003年4月から今年6月27日までの保護室利用日報によれば:昨年の8月が50%台の利用率と低いことを除けば、保護室使用率は今年の1月まで75%前後で推移していた。2月から50%台になり、6月は20%台。当然使用ゼロの日が数日あると言うことになる。4月にはS医師自身で1泊の保護室体験をし、結構騒々しいところで、「静かになれる」空間でもないと実感したとい

う。
「そこです!昨年末から何が病棟で起きたのか。そうなるまでのスタッフや病院の動きが知りたいのです!身体抑制はどうなっているのかも」と私は思わず叫び、メールのやり取りではじれったいし、他のスタッフの意見が聞けない。それではと、渋るS先生を拝み倒して、“実践の特効薬”をつかみに6月末、インタビュー調査をしに病棟に乗り込んだのだった。

 華々しい“理論と実践”の特効薬を期待していったが、それは見つけ出せなかった。見たものは、十勝(帯広)という地域特性とその中の緑ヶ丘病院との長い実践の歴史、それを支えているスタッフの質という当然といえば至極当然なことだった。肩透かしをくった感じもある。でも現実には、日本の精神医療の現状では一番困難なことと痛感している。現制度は心ある人々の頑張りだけでは変えられない。でも、制度の運用次第で患者さんの立場を十分尊重する医療ができるとの思いを緑ヶ丘病院の試みから見たと思う。私のこの報告はデータを省略したアウトラインに過ぎないので、一日も早く、それを実践している当事者たちからの詳細な報告を心待ちにしている。

1)緑ヶ丘病院がおかれた環境
 よい精神保健地域ケアで有名なこの地域は行政的には十勝支庁管内といい、人口は約36万人。精神科総ベッド数は854床(2003.7.1現在)。単科精神病院4、総合病院精神科2(うち病院は外来のみ)、外来診療所は5である。この地域での夜間救急は国立十勝療養所と当番を受け持っているが、緑ヶ丘病院が3分の2を引き受けている。 

2)急性期病棟―4病棟
 この病棟は48床、保護室5床、施錠可能な応急病床1床と個室1床からなっている。(いずれも施錠可能ということ)看護スタッフ17名、病棟担当医2名の構成である。
 保護室のうち1床は、観察室として使用している。保護室から出た患者さんは一般部屋(4人定員)に行くこともあるが、様子を見て個室で施錠せず数日過ごしてもらうこともあるという。私が病棟へ行った日は月曜日だったが、前日に措置入院が1件あって1室は使われていた。全閉鎖病棟で分煙はあまりできていない。

3)病棟での個別聞き取り
 前日に帯広入りした私は、夕方、S医師に時間をもらって、始めた動機、ここまでの経過、看護スタッフとの意識共有化の方法等、思いつくままの質問をして、翌日のインタビュー内容を作り上げた。S医師との事前会見で何か「これが鍵だ!」というものをつかめるかと期待したが、いくつかのキーワードを見つけはしたものの、霞がかかった整理されない頭のまま病棟に行くしかなかった。当日は朝からの訪問で、私の訪問を事前に知らされていたスタッフ達は忙しそうに立ち働いていたが、ナースステーションに入りこんで、S医師、看護師6人に金魚のフン状態でくっつきながら、インタビューを試みたのだった。
<質問内容>
 大まかに以下の3項目で、
①なぜこの病棟に保護室を使わないようにするという発想が生まれてきたか。また現状やこの方針をどう思うか
②そのことによる業務量の増加や、付随するストレスが生じたか
③急性期病棟で、それが今のところ順調に進んでいる理由は何だと思うか?
 これらを、上記の人達に質問していった。

 もらった回答を私なりにまとめたものを次号で紹介したい。
(つづく)

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