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People Say, I'm Crazyを見て

福祉ショップわくわく 東谷幸政


 金色に輝く熊の像をシンボルに戴くカリフォルニア大学バークレー校の正門から延びる道をまっすぐに歩くと、すぐに自立生活センター運動の総本山であるCILがある。映画「卒業」で、ダスティンホフマンが熱心に恋人をまちわびたあの大学は、重度身体障害者が施設を出て普通に暮らすことを求めはじめた当初から、全米の自立生活運動の拠点でもあり、学生運動の拠点でもあった。サンフランシスコ郊外の街であるバークレーにある障害者用アパートに、今はこの映画の撮影者は住んでいる。
 差別や偏見を取り除く為の教育映画ではなく、キャンペーンの為のプロパガンダ映画でもない。ナーシングホームに暮らしていた版画家の作者と家族、友人、ガールフレンドとの心あたたまる日常的な交流の様子も描かれているが、具合の悪くなったガールフレンドの様子や、それを、なんとかしようと思いながら、どうしようもなくうろたえている様子や、精神症状があらわれて苦しんでいる自分の様子も隠さずに表現されている。もちろん、編集段階でカットされた、表現されない・できない現実も多々あるのだろうが、ある病者の生の現実をくりぬいて、優れた映像作品に仕上がっていると感じた。鑑賞後、感想を聞くと、当事者の方からは、予備知識無しに市民がこれを見ると、差別を解消するのでなく、拡大するのではとの懸念が多く聞かれた。ラストシーンで、サンフランシスコのホームからバークレーのアパートへ入居が決まり、本人は大変喜ぶのだが、それは精神障害者だけを集めた、地域での隔離であるから、許せないという声も出た。医療関係者からも、学会などでの研修用に用いるのなら良いのではとの声があった。
 僕は、そうは感じられなかった。むしろ、ある病者の現実として、多くの市民に見てもらったほうが、誤った予断や偏見から解放される早道であると思う。「べてるの家」のビデオのような、底抜けの明るさやユニークさはない。だが、現実にある、影の部分を薄めた映像に、本当に市民への説得力がもてるのだろうか。むしろ、包み隠さずに、人間としての生活の中での喜びも病苦も表現した方がより真実性があり、共感できるのではないかと感じた。当事者の方の言われるように、この人の現実が、全ての精神障害者の現実であるように市民に誤解されないような注釈は必要かもしれない。しかし、そうだとしても、多くのメディアから垂れ流される偏見報道や市民のなかに流布する誤解に満ちた「語り」より、はるかに優れているということは言えるのではないだろうか。
 また、私たちとは違った社会制度のなかで精一杯生きている病者が、よりアメニテイの優れた住宅へ移行できたことに、反対することにも頷首できない。もちろん理想を言えば、普通に市民として分け隔てなく暮らすのが良いに決まっている。それが現実に困難ななかで、安くて広い公営アパートに障害者が集まって住むことが、彼の選択肢として間違っているとなぜ断罪できるのだろうか?
 私が「あかつき」を出て街に暮らす人々の支援をしていたころ、施設を出る一人一人に聞いた。この施設を出た人が集まっているアパートと、住んでいないアパートの、どちらが良いですかと。答えは半々くらいだった。当事者にも当然ながら多様な価値観が存在するのだ。それを認めようではないか。
 「カッコーの巣の上で」「普通の人々」や、「ソフィーの選択」、最近では「ビューティフルマインド」など、精神障害を描いた劇場映画は数多いが、ドキュメントで劇場用に作られたものは、少ない。カナダのMPA精神病者協会が作った、ドキュメントもある。殺人を犯した病者とリーガルサポートするソーシャルワーカーとの対話が描かれていて、非常にすぐれた作品だが、残念ながらまだ日本では公開されていない。バンクーバーでの精神医療改革の歴史も映像の中に入っているので、研修前の学習用にも適していると思われる。(見たい方は筆者までご連絡を。英語版・字幕なし)
 このように、評価が割れた映画であるが、10月の病院・地域精神医学会で上映される見通しであるとのことなので、興味のある方はその際ご覧になっていただきたい。なお、この映画の日本語字幕はバンクーバー在住の上村君代さんが担当された。日本とカナダの当事者交流への協力や、医療・福祉関係者の研修に多大な寄与をしていただいた恩人だが、この映画への思い入れは並々ならぬものがある。すでにアメリカやカナダでは劇場で公開されているが、日本でも多くの人に見てもらいたいとの希望を持っておられる。自主上映など、できるだけ協力したいと思った。
 (4月17日・大泉金杉クリニックにて)

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