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ある熱帯魚のつぶやき

小林信子

私はトゲチョウチョウウオというありふれた熱帯魚よ。この南太平洋ランギロアのラグーン内のサンゴ礁の浅瀬を棲家にしていて、いつもペアで仲良く生活しているわ。
でも近頃は、私たちの主食のコケが生えている岩礁がホテルの開発でどんどん削られてしまい結構生活しづらくなっているのよ。その代わり観光客が気まぐれに与えてくれるフランスパンをいただくけれど。太らないかしら。先祖から伝わる自然のたべもののほうが体に良いに決まっているわ。

 あっ、人間がバシャバシャと近寄ってきたわ、見に行ってみよう。私たちは好奇心おうせいなのよ。日本人らしい中年女2人連れよ。スノーケリングがうまいわね。でも馬鹿ねー、こっちに手をのばしてくるわ、私たちに素手で触れるとでも思っているのかしら。
この2人「10年前はこんなじゃなかった、もっと魚がうじゃうじゃいたのに・・」といっているわ。10年前に来たことがあるっていうのかしら。私たち10年前は知らないけれど、確かにここ4,5年はホテルが大きくなって、地形も変わって海も濁って、仲間もめっきり少なくなったわ。その代わり、海の中の人間は多くなったわね。

 人間が「天然の水族館」と呼んでいるパス(外洋と環礁内との通路)の近くにはたくさんの珊瑚の仲間や、怖いサメや大きな魚も来る場所があるのだけれど、この日本人はそこを見たらなんと思うかしら。かっては、私たちのねぐらだったのだけれど、数度の大嵐やエルニーニョと言うのもあって海底砂が珊瑚にかぶさり、私たちのよりどころの珊瑚がかなり死んでしまったの。だから私たちは気分転換に、それとフランスパンをもらえるから人間のいるホテル近くにきているのよ。
遠い祖先は同じなのに人間って本当に救いがたい生き物ね。自然との共存とか言っているらしいけれど、私たちには何の恩恵ももたらさないわ。先祖返りというか、私たちのような魚になりたくてダイビングとやらが一般化したために、ブクブク泡を立てながらのべつ幕なしに彼らが私たちのテリトリーに侵入してきて本当に迷惑。大きなサメやマンタが通るパスは強い流れがあるのだけれど、ダイバーはこれら魚界の王者を見るために珊瑚礁にしがみつくから、どんどん壊れていっているって仲間がいっていたわ。この日本人もその一味かしら。

観光客を喜ばせるために大きなグラスボートも入ってきて、船長が私たちの仲間を銛で生贄にして、仲間がわんさと食べに来る様子を見せるのよ。自然の摂理だからしょうがないけれど10年ぐらい前はここにもたくさんつまぐろサメがいて、獲付けサメショウとかいっていたそうよ。今はサメもめっきり減ったわね。私たち海の世界の食物連鎖がまったく狂いだしていることを知っているのかしら。

 50年ほどまえから漁業の産業化が始まって以来、乱獲による仲間の数が減り続けているのですって。当時と比べると延縄漁の一本の網にかかる魚の数は十分の一になっているらしいわ。私達の仲間のかつおやマグロやカジキ、サメなどの大型魚がどんどん減ってきているし、餌になるいわしなども乱獲するから個体が大きくならないし、プランクトンが増えすぎたりして自然の摂理が狂ってきているのよ。
 私たちは死んだら他の魚のえさになり他者を助ける運命になっているけれど、人間はどうやって他人を助けているのかしら。人間は弱肉強食をしないとでも言うのかしら。私たちの生活の場を脅かし、仲間を自分たち人間の食料にするのは当然と思っているのだからたいしたことしてないわよね。戦争というお互いに殺しあうことすらしているらしいわね。私たちは殺し合いはしないもの。
 そういう人間が、今また、秘境の南の島開拓ブームとか言って近代的なホテルをどんどん建てて私たちだけのパラダイスに侵入してきているのよ。でもそれではかっこ悪いから《自然との共存》をするとかいっているらしい。人間の間では何となくかっこよく響くらしいけれど、私たちは別にお願いしたけではないし、共存などする必要はないもの。

この広い海を縦横に泳ぎまわる私たちの王様である誇り高きマグロを小さいときに捕まえて、大きな生簀の中で太らせて売ることもしているだって。ひどいわね、魚の品位を汚す行いよね、これが共存なのかしら。人間の餌としてしか私たちをみなしていない証拠よね。私たちは母なる海に護られて今まで無事に来ていたけれど、この日本人の住んでいる国ではとっくから魚の人工飼育が行われているといってるわ。陸上の動物である鶏や牛などはもっとずっと昔から家畜にされてきているのよね。だから、私たちの先祖からの怒りと呪いが時々噴き出して、BSEとか、鳥インフルエンザなどで反乱して食料となることを拒否する戦いをしているのよ。人間が生き延びるということは自然を破壊するということよ、つき詰めれば決して《共存》ではないのよ。それをおためごかしばかり言って。

 ああ、なんて罪深いことよ!共存に近いと人たちと認めてあげてもよいアイヌ人やアメリカ先住民などは確かに「自分たちは大地の一部分として存在している。空気も、森も水も自分たちの先祖である」といっていたらしいけれど、近代人に滅ぼされてしまったものね・・・。それら近代人の子孫は、最近受精卵を体外に取り出して診断し、子供はほしいけれど自分の望む性別の子供でなければ抹殺するという自然の摂理に踏み込むことまでしているんですってね。傲慢よね。
 そういう人類だから、私たちの住む島からそう遠くないところで、つい最近まで核実験を行なっていたのよ、いつまた再開されるかわからないの。暗い気持ちになってきたわ。

 この休みが終われば私たちはこれから冬を迎えるので、北半球の人間が夏休みでここにやってくる7,8月までは少し静かかな。とはいえ、私の命も他の仲間にささげる時期に近づいてきたから、人間がくれるパンでもせいぜい食べて太っておきましょうかね。この海がこれ以上壊される前に仲間のために役立てるのは幸せかもね・・・・・。

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